大仕事がひとつ済んで肩の荷が下りた、というか、むしろ茫然自失のまま台風到来を待つ心境でいる。居間に炬燵が出現したので、しばし足を温めながら、聴くのはやはりプロコフィエフ。
《ザンデルリング/ベルリン交響楽団 記念BOX》と題された5CDsボックス(欧Harmonia Mundi, 2002)に含まれる一枚。絶頂期のオイストラフが東ベルリンに客演したときの実況録音である。
高校生の頃に親しんだ東芝エンジェルのLP(英国でのスタジオ収録)を彷彿とさせる演奏。小生にとってプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲といえばダヴィッド・オイストラフが刷り込みなので、別の音源なのに懐かしさで胸が一杯になる。
《第一番》はオイストラフの十八番(おはこ)なので、1937年に作曲者の指揮で初収録して以来、数多くの音源が残るが、このザンデルリングとの実況録音は圧巻である。
あくまで堂々としていながら、この曲ならではの清冽な、少女のように初々しいリリシズムが横溢して、聴いているともう涙が出そうだ。
それに比べるとオイストラフは《第二番》を演奏会で滅多に弾かなかった。採り上げる回数でいえば、《第一番》との比率はおそらく十対一くらいではなかろうか(好敵手レオニード・コーガンは逆に《第二番》を頻繁に弾いた)。だからこのザンデルリングとの共演記録は稀少性がきわめて高い。
こちらも素晴らしい秀演である。モノーラル収録なのが残念だが、オイストラフの骨太な美音はよく捉えられているし、ピタリと並走するザンデルリングのスキのない指揮ぶりもよくわかる。なかでも第二楽章の凛とした佇まいはことのほか胸を打つ。これを生で聴いたら失神してしまいそう。
最後のストラヴィンスキーはちょっと珍しい。ハイティンク指揮ラムルー管弦楽団との正規盤(Philips, 1963)があるそうだが、小生は未聴。プロコフィエフが《第二番》を作曲するとき大いに意識したに違いないこの曲を、オイストラフはどう解釈するか。さあて、首尾はいかに。これから聴くところである。