ならば次善の策として、作曲家の急逝後、同僚の作曲家ロバート・ラッセル・ベネット(Robert Russell Bennett)がこのオペラの聞かせどころを抜粋し、巧みに綴り合せた「交響的絵画 A Symphonic Picture」を聴こうではないか。これならば二十数分あれば済む。われながら名案ではなかろうか。
棚の奥から取り出したのは "100 Years of Glory: The Pittsburgh Symphony Orchestra" と題されたCD四枚組の美麗な箱物。このなかの一枚目に、ラッセル・ベネット編の交響的絵画《ポーギーとベス》の秀逸な演奏が含まれている。ただし古いモノーラル録音であるが。
フリッツ・ライナー指揮のピッツバーグ交響楽団、1945年3月27日、ニューヨークのカーネギー・ホールでの収録。
ライナーのガーシュウィン、と聞いて、あまりにも唐突で不似合いな組み合わせと思われた方も多かろう。
リヒャルト・シュトラウスとバルトークを得意とした、あの峻厳そのものの堅物指揮者が《ポーギーとベス》を振るなんて、そんなことが本当にあり得るのだろうか?
ところが事実は小説よりも奇なり。
ガーシュウィンの急逝を惜しみ、追悼の思いをこめて、自らの演奏会用にラッセル・ベネットに《ポーギーとベス》を抜粋した「交響的絵画」を委嘱したのは、ほかでもないフリッツ・ライナーその人だったのである!
だから今こうして聴いているのは「交響的絵画」の世界初録音である。いつものライナーらしく緻密で正確なばかりか、共鳴と愛惜の念が横溢し炸裂する、このうえなく感動的な演奏である。
えっ、どうしても聴きたいって? ならばお裾分けしよう(→これ)。
翌日の追記)
ロバート・ラッセル・ベネット編による交響的絵画《ポーギーとベス》(1942)の世界初録音が(その発注者である)フリッツ・ライナー指揮ピッツバーグ交響楽団のSP盤だと上に書いたが、さらに調べてみたら、その少し前に米Victorからファビアン・セヴィツキー(Fabien Sevitzky)指揮インディアナポリス交響楽団のSPが出ていることが判明した。「抜け駆け」である。