先週の土曜日、NHK-FMの「N響 ザ・レジェンド」なる番組で、1969年10月にジャン・フルネがN響に客演したときのプーランク《牝鹿》組曲の貴重なライヴ音源を聴いた。これこそ小生が49年前にラジオとTVで接してプーランクに開眼した演奏そのものであり、半世紀ぶりの再会に感慨一入(ひとしお)だったのは言うまでもない。
予想していたとおり、当時のN響は日常的にフランス音楽に慣れ親しんでおらず、それゆえ沸き立つ愉悦感や弾けるような躍動性に乏しい、いささか生真面目な、折り目正しいプーランクだったのだが、それはどこかフルネ自身の音楽性とも通じるところがあって、これはこれで(プレートルやデュトワとは大いに異なる)《牝鹿》の忘れがたい佳演ではないかとも考えている。この演奏でプーランクに出逢えたわが身の幸運をしみじみ噛みしめた。
それはそれとして、1960~70年代の日本のオーケストラが後世に残したフランス音楽の録音のなんと乏しいことよ。
ミュンシュ&日本フィル(1962)、マルティノン&N響(1963)、アンセルメ&N響(1964)のライヴ音源がのちに発掘されたのを除くと、スタジオで正規録音されたフランス音楽は、マルケヴィッチ&日本フィルによるデュカ《魔法使いの弟子》とラヴェル《ラ・ヴァルス》を含む一枚(東芝EMI、1970)、岩城宏之&東京コンサーツによる『ピアノと鳥とメシアンと』と題したLP(キング、1973)、ジョリヴェがN響の首席奏者たちのアンサンブルを指揮した『ジョリヴェ・コンダクツ・ジョリヴェ』(日本ビクター、1970)・・・数えるほどしか思い出せない。
その意味で、1971年にセルジュ・ボドが読売日本交響楽団に客演した機会を捉えて、特別なセッションを組んで収録されたビゼーの《カルメン》組曲は、私たちのもとに残された数少ないフランス物の音源であり、日本のオーケストラ録音史においても重要な意味をもつ。
にもかかわらず、この貴重な録音はその後ほとんど顧みられることなく、CD覆刻もなされないまま今日に至る。
《セルジュ・ボド/カルメン組曲》
ビゼー: 《カルメン》組曲
■ 序曲
■ 前奏曲
■ 衛兵の交代
■ ハバネラ
■ セギディーリャ
■ アルカラの龍騎兵
■ ジプシーの踊り
■ 闘牛士の歌
■ 間奏曲
■ 密輸入者の行進
■ 夜想曲
■ アラゴネーズ
セルジュ・ボド指揮
読売日本交響楽団
1971年6月8&9日、武蔵野音楽大学ベートーヴェン・ホール
日本ビクター VX-55 (1971) & CD4K-75 (1972)
*後者は4チャンネル録音
当時の読売日響の実力は今とは比較にならないが、それでも渾身の力でボドの要求に応えている。1970年代初頭、このような演奏が音盤に刻まれていた事実を、私たちは忘れてはならないと思う。
今日もこのLP盤が某オークションに出ていた。350円(!)という嘘みたいな安価なのに、誰一人として振り向かない。あまりにも不憫なので、すでに架蔵しているにもかかわらず、思わず落札してしまった。