8月1日の早朝、あまりの暑さに目が覚めてしまい、ふと点けたNHKの「マイあさラジオ」で、広島在住の詩人・文筆家の舩附洋子さんが亡くなった早坂暁の思い出を電話口で静かに語っていた。
早坂が広島の原爆で最愛の妹を亡くしたこと、その妹とは、お遍路の女が置き去りにした乳飲み子を両親が引き取り、実の子として育てた娘なので、自分とは血の繋がりはないこと、この秘められた事実をなんとしても書き残しておきたいこと――親しくしていた舩附さんに、晩年の早坂はそのように胸のうちを打ち明けていたという。
聴いていて、大いに心を乱されてしまった。
早坂暁が脚本を手がけたNHKのTVドラマ《花へんろ》(1983~86)でも、よく似たエピソードが語られる。ただし劇中では広島で被爆するのは妹ではなく、物語の舞台である富屋勧商場(愛媛県風早町の百貨店)の長男・照一が囲っていた妾・蝶子とその息子・昇ということになっている(昇は命を落とし、蝶子は重い後遺症を患う)。女遍路が店の前に置き去りにした幼子を富屋が引き取って育てる話も出てくるが、その娘がその後どうなったかは描かれないまま、ドラマの続編では曖昧にされ、二度と登場することがない。
そうか、そうだったのかと合点する。早坂は自らの実人生を色濃く反映させながら《花へんろ》の脚本を書き継いだのだが、最も大切な、最も重たい出来事だったに違いない妹の被爆死を、そのままの形ではシナリオ化せず、蝶子と昇の悲惨な運命に置き換えて描いたのだ。
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一昨日(8月4日)NHK・BSで《花へんろ 特別編 春子の人形》として放映された新作は、まさにその「真実の物語」を描いたドラマであり、早坂が死の直前まで書いていた梗概に基づいてシナリオ化されたものだという。
舩附さんが早坂の口から聞いたという「なんとしても書き残しておきたいこと」が、この遺作ドラマに凝縮されているのは明らかだ。
追記)
《花へんろ 特別編 春子の人形》の再放送が決まった由。BSプレミアム 9月1日(土)午後三時~とのこと。かつての《花へんろ》本編とは趣が異なり、悲劇に胸が塞がる展開ですが、それでも必見。見逃した方はぜひ。→ここ