今しがた入った報道によれば、英国の作曲家オリヴァー・ナッセン Oliver Knussen が亡くなったとのこと。小生と同じ1952年の生まれだから、まだ六十六歳の働き盛りである。その証拠に、つい先日も彼が芸術監督を務めるオールドバラ音楽祭で、ドビュッシーの劇音楽《ビリティスの歌》やバートウィスルの新作を指揮した演奏会をBBCラジオ中継で聴いたばかりだ。
オリヴァー・ナッセンの名を初めて知ったのは、モーリス・センダックの絵本『かいじゅうたちのいるところ Where the Wild Things Are』を原作とする同名のオペラがグラインドボーン歌劇場で初演されたというニュースに接したときだと思う。調べたら1984年のことだという。彼の存在を全く知らなかった小生は、てっきり「クヌッセン」という北欧の作曲家だと早合点した。彼の知名度はその程度だったのである。
その後、グラインドボーンの公演(センダックが自ら舞台美術を手がけた)の映像はVHSのヴィデオで発売された。なんとしても観たくて、高価だったが海外から取り寄せたのを思い出す。同じとき、やはりグラインドボーン歌劇場で初演されたセンダックによるオペラの第二作《ヒグルティ・ピグルティ・ポップ! Higglety Pigglety Pop!》のヴィデオも一緒に入手した。
オリヴァー・ナッセンは生前の武満徹と親交があり、その縁で何度も来日し、初台のオペラシティで演奏会を催している。小生が間近に聴いたのは、たしか2001年5月のこと、「オリヴァー・ナッセンのいるところ」という味なタイトルの演奏会だったと記憶する。そのときのプログラムはこうだ。
武満徹:
《グリーン》
オリヴァー・ナッセン:
歌と海の間奏曲+ワイルド・ランパス ~歌劇《かいじゅうたちのいるところ》より
ヤンダー城への道 ~歌劇《ヒグルティ・ピグルティ・ポップ!》より
ベンジャミン・ブリテン:
四つの海の間奏曲とパッサカリア ~歌劇《ピーター・グライムズ》より
すばらしい曲目編成である。ほんの一部分とはいえ、このとき彼の二つの「センダック・オペラ」を作曲者の指揮で聴けて幸せだった。最後のブリテンも雰囲気たっぷりの秀演だったように記憶する。
そのとき謦咳に接したナッセンは、巨漢という形容が相応しい大男で、身長はおそらく190センチ以上、体重は・・・ちょっと見当もつかない。栄養の満ち足りた優しい大熊のような体格である。
あの肥満体がナッセンの寿命を縮めたのではないか? 同い年の人間として、その早すぎる死をただ嘆くばかりである。