今日はマルタ・アルヘリッチの誕生日でもあるそうだ。
いやはや、すっかり失念していたわい。熱心なファンだった大昔ならば「6月5日」としっかり肝に銘じていたものだ。
独奏リサイタルを催さなくなって幾年月、彼女への関心が全く失せてしまって久しい。それでも今日で彼女も七十七歳なのだと知る。喜壽の祝いだというのだから、これはもう壽がずにはいられない。
大慌てで棚の奥をまさぐって探しだした一枚はこれ。
《マルタ・アルゲリッチ&チョン・ミョンフン/別府アルゲリッチ音楽祭ライヴ '98》
ラヴェル:
《マ・メール・ロワ》*
プロコフィエフ:
ピアノ協奏曲 第三番**
❖アンコール❖
ヒナステラ:
粋な娘の踊り ~《アルゼンチン舞曲集》作品2 第二曲
連弾ピアノ/マルタ・アルヘリッチ(プリモ)&チョン・ミョンフン(セコンド)*
ピアノ/マルタ・アルヘリッチ**
チョン・ミョンフン指揮
桐朋学園オーケストラ
1998年11月30日、別府ビーコンプラザ、フィルハーモニアホール(実況)
別府アルゲリッチ音楽祭 AMF-199801 (2001) →アルバム・カヴァー
冒頭の連弾は互いの出方を探り合うような塩梅でおずおず始まるが、やがて二人の音楽がひとつに織り合わされ、三曲目の「レドロネット」では途轍もない速さで炸裂。これがアルヘリッチのいつもの流儀なのだ。
スタジオ録音、ライヴ録音を含め、彼女が弾いたプロコフィエフの第三協奏曲がいったい何種類あるのか、もはや判然としないが、なかでもこれは出色の秀演ではないだろうか。感興の赴くまま疾駆する独奏ピアノもさることながら、機敏に反応しつつ必死に伴走する指揮者と学生オーケストラが聴きものだ。全体に粗削りではあるが滅法スリリング。会場にいたらきっと昂奮したろう。
目を閉じて聴き惚れていたら、ゆかりなく往時の記憶が朧げに蘇る。上野の東京文化会館、初来日した彼女がこの協奏曲を弾いている。共演は読売日本交響楽団、指揮は若杉弘。真赤な衣裳のアルヘリッチは芳紀二十八歳だった。