ごらんのとおり、いくつも消印が捺された封筒を中央に配し、周囲に色とりどりの(世界各地の、だと思う)切手がちりばめられる。これが切手本体の図柄であり、さらにその周囲の切手外スペースには服装がそれぞれ異なる(世界各地の)郵便配達夫が四人描かれている。
こう記述すると、先年の展覧会「幻のロシア絵本 1920~30年代」をご覧になった方なら、「おゝ」と声をあげ膝を打ち、合点することだろう。
これはサムイル・マルシャーク作、ミハイル・ツェハノフスキー画による傑作『郵便 Почта』を描いたものに違いない。展覧会カタログから説明文を引く。
世界じゅうを旅する紳士を追って、一通の手紙が地球を一周する『郵便』。子どもたちに最も身近な職業である郵便配達を主人公に、人知れず黙々と働く姿を感動的に謳い上げたマルシャークの名作。構成主義の流れを汲むシンプルな絵を添えたツェハノフスキーは、やがてアニメ映画界に進出、同じ題材を映画化(1929年)した。
そうなのだ。小型シートはそのマルシャーク=ツェハノフスキーによる不朽のアニメ映画《郵便》を採り上げたものだったのだ。
切手の印面上辺にはキリル文字でこう記されている。
ПОЧТА. 1929-1964. СОВКИНО-СОЮЗМУЛЬТФИЛЬМ
《郵便》1929-1964年、ソフキノ=ソユーズムリトフィリム
マルシャークの名もツェハノフスキーの名も記されていないが、切手の図柄を見れば誰だってわかる。1929年とはモノクロの無声版《郵便》(→これ)の制作年、1964年はそのリメイクであるカラー・トーキー版《郵便》(→これ)の制作年をそれぞれ示している。