***
帰宅して夕食(今日も筍御飯)後、そのうちの一枚をかけてみた。
標題を "Visions of Prokofiev" という。サカルトヴェロ(グルジア)出身の気鋭の閨秀ヴァイオリニスト、リサ・バティアシヴィリ ლიზა ბათიაშვილი の最新アルバムである。発売されたばかりの新譜CDがもう中古で出ていたのだ。
"Visions of Prokofiev"
プロコフィエフ:
騎士たちの踊り ~《ロミオとジュリエット》*
ヴァイオリン協奏曲 第一番
円舞曲 ~《シンデレラ》*
ヴァイオリン協奏曲 第二番
行進曲 ~《三つのオレンジへの恋》*
(*)タマーシュ・バティアシヴィリ編
ヴァイオリン/リサ・バティアシヴィリ
ヤニック・ネゼ=セガン指揮
ヨーロッパ室内管弦楽団
2015年7月、バーデン=バーデン祝祭劇場(第一番)
2017年2月、トゥールーズ、サン=ピエール・デ・キュイジーヌ楽堂(その他の曲)
Deutsche Grammophon 479 8529 (2018) →アルバム・カヴァー
ラプソディックで不定形な《第一》、古典的な形式美に抒情を滲ませる《第二》──互いに性格の全く異なるプロコフィエフの二曲の協奏曲をどちらも見事に奏でるヴァイオリニストは案外少ないのではないか。
シゲティは《第一》、ハイフェッツは《第二》しか弾こうとしなかったし、二曲とも録音したオイストラフも実演ではもっぱら《第一》を好んでいた。一枚のディスクに両方を組み合わせて録音する奏者は多いけれど、どちらも水際だった秀演というケースは、そう多くは存在しなかったように思う。
驚いたことに、リサ・バティアシヴィリ嬢はどちらの協奏曲も、申し分なく理想的な形に仕上げている。
《第一》では絶え間なく湧出する気紛れな感興に身を委ね、《第二》では新古典主義の枠組みを踏まえながら嫋々と歌う。この鮮やかな対比をごく自然に現出させたヴァイオリニストが、これまで何人いただろうか?
ネゼ=セガンの伴奏指揮がまた心憎いばかりに絶妙である。小生は数年前ロンドンで彼が指揮したプロコフィエフの第五交響曲に震撼させられたことがあるので、我が意を得た思いで「さもありなん」と深く頷いた。
本CDでは面白いことに、二曲の協奏曲の前後と間に、誰もが知るプロコフィエフの舞台音楽を挿入し、序曲・間奏曲・アンコール風に聴かせる。
しかも、それらは元のオーケストラ曲のままではなく、ヴァイオリン独奏と管弦楽用に新たに編曲されている(編曲者のタマーシュ・バティアシヴィリはヴァイオリニストの実父だそうだ)。編曲の出来映えはともかく、アルバム構成の新機軸として、これはなかなか手のこんだ趣向ではないか。
→本アルバムのメイキング映像