いろいろと悲しいこと、嘆かわしいこと、腹立たしいことばかり続いた一年だったが、暮れもいよいよ押し詰まって、ほっと胸を撫で下ろす嬉しい報せが届いた。
千葉県佐倉のDIC川村記念美術館が所蔵してきた日本画作品を全点売却するとの告知に驚き、かつ深い落胆を覚えたのはこの十一月のことだ。
重要文化財で「川村コレクション」第一号でもある長谷川等伯《烏鷺図屏風》もさることながら、永らく人気を集めてきた橋本関雪の代表作三点がもう観られなくなり、いずこともなく行方知れずになることに、かつてここに奉職した者として深く胸を痛めていた。
その記事はこれ →コレクション売却は終わりの始まり?
これらの関雪作品がかつて館のコレクションに加わったとき、ささやかな記念展示を行ったことがある。1993年のことだ。そのとき全面的にご協力いただいたのが、京都の関雪旧宅に立地する白沙村荘・橋本関雪記念館だった。
そのとき橋本歸一館長(関雪のお孫さん)から「《琵琶行》も《木蘭》も祖父の生涯を代表する作品。海外流出の懼れもあったが、こうして国内の立派な美術館に収まり、安住の地を見出したことを嬉しく思う」と難有いお言葉を頂戴し、深々と頭を下げられた。
そういう記憶が鮮明にあるものだから、申し訳なさと情けなさで胸が張り裂けそうになった。川村記念美術館はけっして安住の地ではなかったのだ。
歸一館長はすでに故人だが、今も記念館を運営されるご家族に合わせる顔がない、どうお詫びしたらいいものか、と(すでに当事者でないにもかかわらず)密かに心を痛めていたのである。
ここに貼ったのは、その白沙村荘・橋本関雪記念館のHPに載った12月22日付の告知記事(→これ)。
行方を案じていた《琵琶行》と《木蘭》、そして珠玉の小品《秋桜老猿》の三点をこのたび橋本関雪記念館が入手し、来春からの展示も決まったとのこと。
「名作の帰還」――まさにそのとおりである。代表作がついに安住の地を見出したのを寿ぎたい気持ちで一杯だ。同記念館の英断に、一鑑賞者として心から感謝申し上げたい。