演奏はシャルル・ミュンシュ指揮ニューヨーク・フィル。ミュンシュは1942年パリでこの曲をいち早く指揮しながら、正規録音は残しておらず、放送録音の存在もこれまで知られていないから、出現した実況音源はまさに値千金といえそうだ。しかもバーゼルでの世界初演から十年、アメリカ初演のライヴなのだ。もちろん、作曲者オネゲルも台本作者クローデルも当時まだ健在だった。
キャストの顔ぶれを以下に記す。
■ 語り
ジャンヌ・ダルク/ヴェラ・ゾリーナ Vera Zorina
修道士ドミニック/レーモン・ジェローム Raymond Gérôme
■ 歌唱
ナディーン・コナー Nadine Conner
ヤルミラ・ノヴォトナー Jarmila Novotná
イーニッド・サントー Enid Santo
ジョゼフ・ラデルート Joseph Laderoute
ロレンツォ・アルヴァーリ Lorenzo Alvari
シャルル・ミュンシュ指揮
ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団、ウェストミンスター合唱団
(1948年1月4日、ニューヨーク、カーネギー・ホール実況)
主役のふたり、ヴェラ・ゾリーナとレーモン・ジェロームの組み合わせは、五年後の1953年に録音されたユージン・オーマンディ指揮によるLP(米Columbia)と同一である。
声楽陣は当時メトロポリタン歌劇場で活躍していた歌手たちらしい。なかでもチェコ出身のヤルミラ・ノヴォトナーは第二次大戦を挟んだ時期に一世を風靡した名ソプラノとして知られる。
聴いてみればすぐわかるのだが、これは途轍もない凄演である。
オネゲルの音楽にどこまでも没入するミュンシュの気迫がなんとも凄まじいし、ジャンヌ役のヴェラ・ゾリーナの語りも格調が高く、次第に熱を帯びて圧倒される。歌手たちコーラスも全力を尽くして歌っている。
これほど振幅が激しく、強烈で、粗削りで、ヴォルテージの高い《ジャンヌ》の演奏はちょっと聴いたことがない。
ただし、1948年という年代を考慮しても、録音はあまり芳しくない。強音は歪むし、弱音はノイズにかき消される。
アセテートSP盤17面に刻まれた音質は、お世辞にも聴きやすいものではない。ニューヨークからロサンジェルスに中継された音声を記録用に録音したものらしく、盤の継ぎ目なのか、何箇所か音楽が途切れる箇所がある。
だが、不思議なもので、音の悪さはやがて気にならなくなる。一心に聴き入るうちに、ミュンシュの白熱のタクトから放出される音楽の波動がじわじわ迫ってきて、全身が金縛りにあったようになる。指揮者と楽曲との一体化が凄まじく、これこそオネゲルの望んだ響きだという気がしてくる。
とにかく、お聴きください。70年前の《火刑台のジャンヌ・ダルク》を(→ここ)。
■ シャルル・ミュンシュ指揮による《火刑台のジャンヌ・ダルク》アメリカ初演は1948年1月1、2、4日の三日間行われた由。本録音はその三日目のライヴ録音らしい。このオラトリオの初期の演奏記録については、以下のポール・クローデル協会の一覧リストを参照されたい(→ここ)。