八月末からずっと厄介な仕事に忙殺されて、あれもこれも見逃し、聴き逃した。寸暇を惜しんで本一冊を丸ごと点検し校閲したのだから致し方ない。
昨日は家人に誘われて日本橋室町のTOHOシネマズ日本橋で「ナショナル・シアター・ライブ2017」の最新作を観た。といっても実際の上演は2015年秋から翌16年春にかけて。劇場はサウス・バンクに三つある劇場のうちで最も大きなオリヴィエ・シアター。
演目はシェイクスピア《お気に召すまま》。小生も家人も未見だし、台本も未読。不勉強を棚に上げ、まっさらな状態での観劇と相成った。
お気に召すまま
As You Like It
作/ウィリアム・シェイクスピア
演出/ポリー・フィンドリー
装置/リジー・クラチャン
衣裳/クリスティナ・カニンガム
■
ロザリンド(前公爵の娘)/ロザリー・クレイグ
オーランドー(ローランド卿の末子)/ジョー・バニスター
シーリア(フレデリック公の娘、ロザリンドの従妹)/パッツィ・フェラン
オリヴァー(ローランド卿の長子)/フィリップ・アーディッティ
ジェイクィーズ(前公爵の従者)/ポール・チャヒーディ
タッチストーン(道化)/マーク・ベントン
フレデリック公(前公爵の弟)/リオ・リンガー
前公爵/ジョン・ラム
フィービ(女羊飼)/ジェマ・ローレンス ほかいや~驚いたのなんの。人気作の誉れ高いわりに、このいい加減なご都合主義はどうだ。男装したロザリンドに恋人オーランドをはじめ誰ひとり気づかないのは、まあ劇のお約束として我慢するとして、大団円で悪逆非道の敵役オリヴァーがいつの間にか改心し、それどころかシーリアと相思相愛になるなんて、いくらなんでも無茶苦茶だ。17世紀の観客は納得したのだろうか。
こういう詰めの甘い筋立てをみるにつけ、《真夏の夜の夢》や《テンペスト》がいかに緊密な芝居かがわかろうというものだ。一党を引き連れて森にたて籠もる前公爵は《テンペスト》のプロスペローに似ていなくもないが、性格描写をほとんど欠く(名前すらない!)ので、ドラマのうえで機能しないのももどかしい。プログラム冊子で解説の狩野良規氏が「実にいいかげんな芝居」「作りのいたって雑な戯曲」「穴だらけの台本」と畳みかけるように喝破するのも宜なるかな。
だからこの上映が退屈だったかというと、さにあらず。存分に愉しんだ。
冒頭の宮廷場面を現代の会社オフィスに置き換えた着想は、今どき珍しくもなんともないが、それが一転して森の場面に変ずる舞台転換の意表をつく鮮やかさには、誰しも目を瞠ることだろう。目覚ましい発想というほかない。
それに出てくる役者たちが滅法いい。
とりわけロザリンドに扮したロザリー・クレイグ。男装の麗人のショートヘア姿がよく似合うし、きびきびした所作や淀みない啖呵が様になる(
→舞台写真)。家人は気づいたのだが、彼女は同じナショナル・シアター・ライブで観た《三文オペラ》でポリーを歌い演じたという(
→舞台写真)。そうだったか、全くわからなかったなあ。
(まだ書きかけ)