手許にすっかり古びて黄ばんだ新聞の切り抜きが残されている。『朝日新聞』朝刊のテレビ・ラジオ欄の紹介記事、日付は1970年2月19日。
海外秀作シリーズ
夏の歌
NHKテレビ 後10・10
■老作曲家の花やかな過去
英国の個性的な作曲家フレデリック・デリアス(一八六二―一九三四)の晩年の創作生活を助手の目を通して描いた作品。英国放送協会が文化人の創作活動、生活などをテーマにした定時番組「オムニバス」の中の一作。脚本は助手エリック・フェンビーと監督ケン・ラッセルの共作。69年プラハ国際テレビ祭金賞受賞作。
音楽青年エリック(クリストファー・ゲイブル)は偶然きいたデリアス(マックス・アドリアン)の曲に魅せられた。作曲家が半身不随、失明で創作活動も中止と知り、彼は助手を志願。フランスの田舎で病人の気むずかしさに悩まされながら、大作「夏の歌」の作曲を手伝った。仕事の間に、老残の彼から想像できない、過去の花やかな人間的な側面も知った。縦横十センチにも満たない小さな告知記事だったが、朝起きてこれを読んだとき、田舎の高校生はなにやら胸騒ぎを覚えた。これは見逃してはならないと思った。だがそのとき、まさかその番組がそれから半世紀もの間ずっと小生を呪縛してやまない決定的な体験になろうとは、想像もしなかったのだが。
(つづく)