極東の島国で梅雨が明けたか明けないか、政権の大嘘が暴かれるか否かと喧しくしている間に、倫敦では夏の祝祭プロムズ(プロムナード・コンサート)が疾うに(先々週の金曜日に)開幕している。連日の開催だから、すでにProm15 あたりまで来ている。すべてネット経由で一か月間は自由に聴ける。
小生がとりわけ耳を欹てたのは "Malcolm Sargent's 500th Prom" と題された一昨日(7月24日)の演奏会である。煩を厭わず委細を記そう。
Prom 13: Malcolm Sargent's 500th Prom
2017年7月24日(月)19時30分~
ロイヤル・アルバート・ホール
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ヘンリー・ウッド編: 英国国歌
ベルリオーズ: 序曲《ローマの謝肉祭》
シューマン: ピアノ協奏曲*
(休憩)
エルガー: 序曲《コケイン(ロンドンの下町で)》
ウォルトン: 《ファサード》組曲 第一&第二番(抜粋)
ホルスト: 歌劇《大馬鹿者 The Perfect Fool》より舞踊音楽
ディーリアス: 春初めての郭公を聴いて
ブリテン: 青少年のための管弦楽入門
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ピアノ/ベアトリーチェ・ラーナ*
アンドルー・デイヴィス卿指揮
BBC交響楽団ご覧のとおり、いかにもプロムズらしい、盛り沢山の典型的なプログラムだ。だが「マルコム・サージェントの第五百回プロム」と副題されるように、これは通り一遍の選曲ではない。
タイトルが示すごとく、これは1966年7月23日にマルコム・サージェント卿がBBC交響楽団を指揮した「プロムズ」演奏会と全く同一の演目を、同じロイヤル・アルバート・ホールで蘇演しようという企てなのである。
この日は1966年の「プロムズ」第一夜にあたっていたから、冒頭まず英国国歌で開始され、前半はポピュラーな名曲、後半はサージェントが得意とする英国近代音楽がまとめて奏された。ちなみに半世紀前のシューマンの協奏曲での独奏者はモーラ・リンパニーだったそうだ。
マルコム・サージェントはヘンリー・ウッド卿の歿後その「プロムズ」演奏会を引き継ぎ、二十年以上にわたり熱心にその隆盛に尽くした。1966年の第一夜がたまたま彼の五百回目の登場だったわけだが、現今と違って「プロムス」の総帥たるサージェント卿の責務はきわめて重く、ひと夏で催される「プロムズ」演奏会の半数近くを自ら指揮しなければならなかった。
この1966年に限っても、サージェント&BBC響の「プロムズ」登場は、この第一夜を含めて十八回を数えている。
そのなかで彼は、エルガーの《エニグマ》変奏曲、第二交響曲、《ゲロンティアスの夢》、ディーリアスの《生のミサ》、ホルストの《惑星》、ヴォーン・ウィリアムズの第二交響曲、ウォルトンの《ベルシャザールの夢》など重要な英国作品、アーサー・サリヴァンの喜歌劇のハイライト、ベートーヴェンの《第九》まで指揮している。最終夜「ザ・ラスト・ナイト」では芳紀二十六歳のマルタ・アルヘリッチ嬢が登場し、サージェントの指揮でプロコフィエフの第三協奏曲を弾いた。60年代は新旧両世代が共存する最後の時代でもあったのだ。
その過労のせいもあったのか、サージェント卿は翌67年には膵臓癌に冒され、同年の「ザ・ラスト・ナイト」では舞台上から「来年またお逢いしましょう」と聴衆に呼びかけたのが最後の挨拶となり、その二週間後に急逝した。享年七十二。
2017年は彼の歿後五十周年にあたっており、今回の催しは節目の年に際し、故人の偉業を顕彰しようという有意義な企てなのである。
(まだ聴きかけ)