ここ数日間というもの不快感に悩まされている。今日はかなりマシになったものの、外に出ると嫌な匂いがそこはかとなく漂っている。
最初に気づいたのは家人だった。朝ヴェランダに出たら、表の空気が生ぐさいという。なんだか魚が腐ったような匂いがすると訴えた。そのときは気のせいだろうとやり過ごしたが、翌日たまたま近所に買物に出たら、海から吹く風に異臭がする。単に磯の香りを含んだ潮風というのでなく、むかつくような悪臭である。なんというか、魚市場の周辺か、漁港の桟橋ででも嗅ぐような生ぐささなのだ。
這う這うの体で逃げ帰り、ネットで少し調べたら悪臭の原因が判明した。東京湾の北側(つまり、わが海浜の周辺だ)で、異常高温のため赤潮が生じている。プランクトンが大量発生し、酸素不足になったため魚介類が酸欠死し、そこから腐敗臭が漂い出るのだそうだ。
悪臭は千葉市内のあちこちに拡散し、海岸から離れたJR千葉駅のホームでも、かなり内陸の市街地でも匂っているらしい。わが住居は海岸からわずか数百メートルに位置し、海風をじかに受ける場所だから、生ぐささも一入なのだ。
だから今日も朝から窓を閉め切って、仕方なくクーラーをかけた。夕方には自然な外気を導き入れたいが、臭気が完全に消えるまでしばしの辛抱だ。
せめて馨しいピアノの音色で、襲ってくる不快感に対抗することにしたい。
"Horszowski plays Bach, Mozart, Szymanowski and Chopin"
バッハ: パルティータ 第二番
モーツァルト: ソナタ 変ロ長調 K570
シマノフスキ: マズルカ 作品50の13, 14, 15, 16
ショパン: 夜想曲 作品27の1, 2 作品24の2
ピアノ/ミエチスワフ・ホルショフスキ1983年6月13日、スネイプ・モールティングズ、オールドバラ音楽祭(実況)
BBC Music Volume 1 Number 12 (1993)
→アルバム・カヴァー往年のカザルスの伴奏ピアニストとして知られるのみで、引退同然だった老匠をオールドバラ音楽祭に引っ張り出し、その類まれな音楽性を世に知らしめた歴史的なライヴである。仕掛人はたしかマレイ・ペライアだったかと記憶する。この演奏会が評判を呼び、当時すでに九十翁だったホルショフスキは一躍「時の人」となり、世界中から演奏依頼が殺到した。彼がはるばる初来日し、東京のカザルス・ホールの舞台に立ったのは1987年、九十五歳のときだった。
この演奏は当時NHKのFM放送で耳にした憶えがある。とても九十翁とは思えぬ瑞々しさは今こうして聴き直しても胸を打つ。どの曲も素晴らしいが、とりわけ親交のあった同郷のシマノフスキのマズルカが共感のほとばしるような秀演だ。
"Fou Ts'ong -- Mozart: Piano Concertos Nos. 25 & 27"
モーツァルト:
ピアノ協奏曲 第二十五番
ピアノ協奏曲 第二十七番
ピアノ/傅聰 (傅聪)
ヴィクトル・デザルツェンス指揮
ウィーン国立歌劇場管弦楽団1962年頃、ウィーン
Treasures TRE-118 (2015)
先日ドビュッシーのCDを聴いてその感興に満ちた演奏に驚かされたフー・ツォン。その若き日の正規録音を聴く。月並な表現だが、これは心を洗われるような至純のモーツァルトだ。
遥か昔、米Westminster原盤によるキングレコードのLPで親しんだモーツァルトの協奏曲アルバムだ。廃盤になって久しく、世界中どこでも入手困難だったところ、近年になって湧々堂というCDショップが独自に覆刻した。早い話、既存のLP(キングレコード盤だという)からの採録、いわゆる「板起こし」なのだか、これでしか聴けない現状なのだから値千金というべきだろう。