ちょっと眠たかったが、いつもより早起きし、家人に同行して川崎まで出向く。千葉県千葉市から神奈川県川崎市まで、なんだか遠そうだが、意外にも駅から駅まで一時間かからない。遠いのは心理的距離だけなのだ。
目的は映画、それも芝居の上演を丸ごと収録した映像を映画館で観る。「シアター・ライヴ・ヴューイング」である。今秋から始まった「ブラナー・シアター・ライブ」。配給元の口上を引く。
世界で活躍する俳優・監督のケネス・ブラナーが率いるケネス・ブラナー・シアター・ カンパニーによるロンドン、ギャリック劇場での上演舞台3作品を、世界の映画館でお楽しみ頂ける「ブラナ ー・シアター・ライブ」(BTLive)が日本に上陸! イギリスでハリウッド大作をしのいでオープニング興収一位を記録したジュディ・デンチ出演《冬物語》を始め、今シーズンは傑作三作品を日本の映画館でお楽しみ頂けます。
その第一弾が今日これから観るシェイクスピアの《冬物語 The Winter's Tale》だ。これも同じく配給元の口上から。
ケネス・ブラナーは、自身のカンパニーの第一弾作品として、時代を超えて親しまれているシェイクスピア原作のなかから強迫観念と贖罪にまつわるロマンス劇《冬物語》を選んだ。
ケネス・ブラナーとロブ・アッシュフォードが演出する《冬物語》は名優たちが出演。そのなかでもジュディ・デンチは本作で2016年ローレンス・オリヴィエ賞に輝いている。
《冬物語》はイギリス本国で520館で上映され、イギリス興行収入は約三億円を突破し、オープニングナイト興収で一位の座を獲得した大ヒットを記録している。
演劇ファンだけでない観客の支持の裾野を広げたイギリスの大ヒット作は、日本でも公開が待ち遠しい、見逃せない作品となるだろう。
シェイクスピアにとんと疎い小生と家人は《冬物語》の粗筋さえ碌に知らず、今を時めくケネス・ブラナーも名前だけの存在だ。名女優ジュディ・デンチ出演というところに興味をそそられて出向いた次第。スタッフ&キャストをざっと列挙する。
演出/ロブ・アシュフォード Rob Ashford &ケネス・ブラナー
装置・衣裳/クリストファー・オラム Christopher Oram
照明/ニール・オースティン Neil Austin
音響/クリストファー・シャット Christopher Shutt
作曲/パトリック・ドイル Patrick Doyle
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ハーマイオニー(シチリア王妃)/ミランダ・レイゾン Miranda Raison
リオンティーズ(シチリア王)/ケネス・ブラナー Kenneth Branagh
アンティゴナス(シチリア貴族)/マイケル・ペニントン Michael Pennington
ポーライナ(アンティゴナス夫人)/ジュディ・デンチ Judi Dench
カミロー(シチリア貴族)/ジョン・シュラプネル John Shrapnel
ポリクシニーズ(ボヘミア王)/ハドリー・フレイザー Hadley Fraser
フロリゼル(ボヘミア王子)/トム・ベイトマン Tom Bateman
パーディタ(シチリア王女)/ジェシー・バックリー Jessie Buckley
オートリカス(悪徳行商人)/ジョン・ダグリーシュ John Dagleish
時の化身/ジュディ・デンチ ほか
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映像監督/ベンジャミン・キャロン Benjamin Caron
映像撮影/ブレット・ターンブル Brett Turnbullわざわざ川崎まで出向いたのは、このヴューイング上映が観られる東宝系の映画館は限られていて、日本橋は夜間上映のみ、六本木の喧騒は避けたい、という理由から、消去法的にここTOHOシネマズ川崎が残った。少し早めに到着し、映画館ロビーで早めの軽いサンドウィッチ昼食を済ます。上映は11時20分からだ。
率直なところ《冬物語》は上出来な芝居ではない。前半はまるで《オセロー》のごとく、疑心暗鬼から王妃の不倫を疑ったシチリア王が家族もろとも不幸と絶望の淵に追いやるという底なしの悲劇。ところが十六年後の後半は一転して、遺棄された王女が見出され、再会と和解を経ての祝祭的な大団円。終わり方こそ同時期の《テンペスト》に似ていなくもないが、悲劇から喜劇への転換があまりにも唐突でご都合主義で、急転直下のハッピーエンディングもまるで合点がいかない。少なくとも五百年後の私たちはそうだ。これがシェイクスピアが晩年に到達した境地だと説かれても「なんだかなあ」なのである。
それでも(二十分の休憩を含めて)約三時間、少しも飽かず楽しめたのは、原作の科白の詩的な美しさ、そして役者たちの役どころを心得た演技の冴え故だろうか。演出は(初見なので偉そうなことは云えないが)アンサンブルの妙をそのまま束ねたオーソドックスな行き方だったように思う。
見どころはいろいろ。前半の悲劇で俳優たちが散らす火花にも目を瞠ったが、第二幕冒頭のボヘミアの村祭りでの群衆シーンがとりわけ愉しい見ものだった。陽気で野放図な歌と踊りは、第一幕の陰々滅々たる展開を忘れさせ、物語を方向転換させるうえですこぶる効果的。ここで芝居は真っ二つに割れるのだが、場面そのものは実に躍動的で心に残る。憎めない詐欺師オートリカス役のジョン・ダグリーシュが実に楽しそうに演じるのもいい。
(まだ書きかけ)