コニファー・レコード(Conifer Records)もいつの間にか消滅した。Conifer とは針葉樹の総称。正式には松毬(まつかさ)のような実をつける球果植物門を指す。松、杉、樅、檜、糸杉、柏槇(びゃくしん)などはすべてコニファーだそうだ。なのでこのレーベルの商標もこんなデザイン(
→これ)。これに見覚えのある御仁は相当な英国音楽マニアだろう。
コニファー創立は1977年。LP末期からCD全盛期にかけて、筋の通ったセレクションで燻し銀のような名盤を多く制作した。他のインディ・レーベルと同様、経営母体はさまざまに有為転変し、1992年Zombaに売却されたと思ったら、96年に大手BMGの傘下に入った。その後は次第に影を潜め、BMGがSonyに吸収される2008年には姿を消していたと思う。勿体ない話だが、これが世の常なのである。
"Tasmin Little - Delius: The Four Violin Sonatas"
ディーリアス:
ヴァイオリン・ソナタ
ロ長調(遺作)
ソナタ 第一番
ソナタ 第二番
ソナタ 第三番
ヴァイオリン/タズミン・リトル
ピアノ/ピアーズ・レイン1997年2月18,19日、ロンドン、セント・サイラズ・プレズビテリー
Conifer-BMG 51315 2 (1997)
→アルバム・カヴァーディーリアス演奏家としてのタズミン・リトル嬢の声価を決定づけた名盤。遺作も含めたソナタ全四作が一枚にまとめられた価値も大きい。先行するラルフ・ホームズ盤(英Unicorn-Kanchana)とは対照的にメリハリある強靭明晰な解釈だが、ディーリアスの音楽の魅惑を余すところなく伝えている。ディーリアン必携の決定盤だろう。Sony から再発されているが、ブックレットの充実までは再現されず。
"Elgar: Cello Concerto arr. for Viola etc."
エルガー(ターティス編):
ヴィオラ協奏曲*
三つの性格的小品 作品10
バックス:
ヴィオラと管弦楽のためのファンタジー*
ヴィオラ/リヴカ・ゴラーニ (*=世界初録音)
ヴァ―ノン・ハンドリー指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団1988年7月21~23日、トゥーティング、オール・セインツ・チャーチ
Conifer CDCF 171 (1988)
→アルバム・カヴァー往年の名ヴィオラ奏者ライオネル・ターティスがエルガーのチェロ協奏曲をヴィオラ用に編曲し、作曲者の前で弾いてみせて正式な承認を得たというヴァージョン。これが最初の録音であり、歴史的価値が高い演奏記録。併録のバックスも世界初録音。選曲の妙が光る。ゴラーニ嬢のヴィオラにはやや癖があって、英国風の演奏とは隔たるものの、技術的には申し分ない。ハンドリーの周到な伴奏指揮にも感嘆。
"Bartók/Serly: Viola Concertos - Rivka Golani"
バルトーク: ヴィオラ協奏曲 (シェルイ編)
シェルイ: ヴィオラ協奏曲 (1929)
シェルイ: ヴィオラと管弦楽のための狂詩曲 (1947~48)
バルトーク: ハンガリー農民歌
バルトーク: (スロヴァキア)民謡による三つのロンド (ドラーティ編)
ヴィオラ/リヴカ・ゴラーニ
アンドラーシュ・リゲティ指揮
ブダペスト交響楽団1990年1月28日~2月1日、ブダペシュト、イタリア研究所ホール
Conifer (NEC輸入盤) CDCF 189 (1990)
→アルバム・カヴァー上掲のエルガー+バックス盤の大好評を受けてハンガリーの首都で録音されたリヴカ・ゴラーニの協奏曲録音。名高いバルトークの遺作と、その草稿を補筆完成させたティボル・シェルイの未知のヴィオラ協奏曲をカップリングするという好企画。リヴカ嬢のヴィルトゥオーゾ的な資質はむしろ本盤でこそ発揮されているだろう。
"Prokofev: Classical Symphony etc"
プロコフィエフ:
ユダヤ主題による序曲
フルート協奏曲 (クリストファー・パーマー編)*
古典交響曲
ヴァイオリン合奏による無伴奏ソナタ 作品115**
四つのファゴットのためのスケルツォ 作品12-bis***
フルート/ジョナサン・スノウデン*
ファゴット/マーティン・ガット、メリック・アレグザンダー、メルボン・マッキー、ジョン・オーフォード***
マーク・スティーヴンソン指揮
ロンドン・ムジチ (*, **=世界初録音)1990年5月16~18日、ハートフォードシャー、ウォトフォード・タウン・ホール
Conifer CDCF 173 (1991)
→アルバム・カヴァープログラムに「プロコフィエフのフルート協奏曲」なる見慣れぬ演目を発見して驚かれるはずだ。なにを隠そう、これは高名なフルート・ソナタ(≒ヴァイオリン・ソナタ第二番)をそのまま協奏曲に仕立てたものだ(1988年の初演もここでの奏者スノウデンによる)。編曲は研究者クリストファー・パーマー。本盤の特異な選曲も、ライナーノーツも、パーマー自身の手になるもの。通常はヴァイオリン一挺で奏される無伴奏ソナタが、原曲どおりヴァイオリン・アンサンブルで合奏されるのも聴きものだ。アルバムの構想段階では作曲家の次男オレグ・プロコフィエフの協力があった由。演奏の出来は正直なところ平凡ながら、その旺盛な意欲を買う。
"Martinů: Špalíček / Double Concerto"
マルチヌー:
二群の弦楽合奏とティンパニのための二重協奏曲 (1938)
バレエ組曲《シュパリーチェク》(1931~32/1940)
チャールズ・マッケラス卿指揮
ブルノ国立フィルハーモニー管弦楽団1990年10月10日、ブルノ
Conifer CDCF 202 (1991)
→アルバム・カヴァーパウル・ザッハーの委嘱で作曲された二重協奏曲は不安な時代の予感に満ち、少し前に同様の道筋で世に出たバルトークの「弦チェレ」と似通った音楽。引き締まったマッケラス卿の指揮ぶりが素晴らしい。続くバレエ《シュパリーチェク》はチェコのお伽噺に取材したもの。題名は英語では「チャップ・ブック」と訳されるから、邦題は「絵草紙」あたりだろう。一転して才気煥発、稚気と歓びに満ちた祝祭的な気分に貫かれる。こちらもマルチヌーを熟知した指揮者の手腕が光る秀演だ。