昨日(7月8日)は
パーシー・グレインジャーの誕生日だった。メルボルンのグレインジャー博物館からの投稿記事でそう知らされたが、もう夜になっていて対応できなかった。それにここ数年、グレインジャーの存在はレコード業界では至って影が薄く、ブラスバンド方面を除くと碌なCDが出やしない。そもそも目ぼしい新譜は疾うにここで紹介済なのだ(
→アンドルー・デイヴィス指揮盤、
→グレインジャーの管弦楽と手紙朗読を組み合わせたCD)。こと新しい話題もない。
そこで一夜明けた今日、手持ちの旧譜(グレインジャーのディスクはたいがい架蔵する)から、とりわけ胸を打つ鍾愛の一枚を。ディーリアスとグレインジャーの無伴奏(ときに伴奏あり)合唱曲を表裏(←死語)に配したもの。最初まずLPで聴き、のちにCDで買い直したものだ。
"Delius -- Grainger"
ディーリアス:
真夏の歌
クレイグ・デューにて
水上で夏の夜を歌うために(二曲)
荘厳な光は城壁に落ちて(テニソン卿)
春の到来
陽光の歌
森を抜けて
グレインジャー:
ブリッグ・フェア
ジャングルの朝の歌(キップリング)
ダニー・ディーヴァー(キップリング)
ピオラ狩(キップリング)
スカイ・ボート・ソング
シャロー・ブラウン
アイルランド、デリー州の調べ
オーストラリア高地の歌
六人の公爵が釣りに出た
穴掘りに出た豚がいた(クリスマスの日の朝)
行方知れずのご婦人が見つかった
サイモン・ホールジー指揮
バーミンガム市交響楽団(CBSO)合唱団1987年6月19~21日、バーミンガム、セント・ポールズ聖堂
Conifer CDCF 162 (1988)
→アルバム・カヴァー何よりもまず選曲が素敵だ。誰もが耳に馴染のある無歌詞の二曲 "To be sung of a summer night on te water" をはじめ、ディーリアスの主だった無伴奏合唱曲が網羅され、そのディーリアスがことのほか愛した「ブリッグ・フェア」を皮切りに、グレインジャーの代表的な合唱曲がここで十一曲も聴くことができる。これが出た1980年代はグレインジャー復興がまだ起こっておらず、これらの曲を小生はこのLPで初めて耳にしたのである。
それから約三十年が経ち、グレインジャーの合唱音楽は随分と人口に膾炙したけれど、ここに聴くバーミンガム勢の歌唱を凌ぐ類盤は今でも少なかろう。サイモン・ラトルの信頼が厚い合唱指揮者ホールシーの統率は手堅く、しかも楽曲への理解は並々ならぬものだ。一陣の爽やかな春風が吹き過ぎる「ブリッグ・フェア」、野趣に溢れて逞しい「ダニー・ディーヴァ―」、底知れぬ千尋の海原を覗き込むような「シャロー・ブラウン」、"ダニー・ボーイ" ではなく無歌詞のハミングでしみじみ歌われる「アイルランド、デリー州の調べ」、時に足踏みを交えながら素朴な民謡の息吹を伝える「迷子の女人が見つかった」。どれもこれも彼らの歌唱で素晴らしさを知った。その魅力は今なお減じてはいない。