なにやら慌ただしく六月が過ぎ去ろうとしている。三本の註文原稿を抱えたまま茫然と見送る心境だ。せめて一時でも心穏やかになりたいと音楽に縋る。
"Chausson - Ravel - Duparc / Felicity Lott"
ショーソン:
愛と海の詩 (詞/モーリス・ブーショール)
■ 水に咲く花
■ 間奏曲
■ 愛の死
ラヴェル:
シェエラザード (詞/トリスタン・クリングゾール)
■ アジア
■ 魔法の笛
■ つれない人
デュパルク:
管弦楽伴奏歌曲*
■ 旅への誘い (詞/シャルル・ボードレール)
■ 悲しき歌 (詞/ジャン・ラオール)
■ フィディレ (詞/ルコント・ド・リール)
ソプラノ/フェリシティ・ロット
アルミン・ジョルダン指揮
スイス・ロマンド管弦楽団2001年8月30、31日、2002年10月10、11日*、
ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール
æon AECD 0314 (2003)
→アルバム・カヴァーショーソンの《愛と海の詩
Poème de l'amour et de la mer》とラヴェルの《シェエラザード Shéhérazade》は、ともに「ここではない、どこかへ」の憧れに浸された象徴主義=世紀末的な歌曲集として互いに親和性が濃いにもかかわらず、同じディスクに組み合わされる機会が滅多にない。管見の限りでは、米女性
ネッダ・カセイが何故かチェコの楽団と共演した懐かしいLP(マルティン・トゥルノフスキー指揮
→これ)、ブルガリアの
ヴェッセリーナ・カサローヴァのCD(ピンカス・スタインバーグ指揮
→これ)、近年では
スーザン・グレアムのCD(ヤン=パスカル・トルトリエ指揮
→これ)位しか存在しないのではないか。ほかに希臘系独人Stella Doufexis のCDもあるというが架蔵しない。
本CDはこれら二曲に併せ、デュパルクの代表的な歌曲を三曲(作曲者自身による管弦楽編曲版)を附加し、それぞれ三曲からなる三人の作曲家の歌曲集が綺麗に並ぶ形になるのが床しい。しかも、これが驚くべき名演なのである。
デイム・フェリシティがフランス近代の声楽曲を十八番にしているのは夙に名高く、しばしばアルミン・ジョルダンと組んで忘れがたい名唱を披露している(例えば
→これ、
→これ、
→これ)。相性の良い共演者といってしまえばそれまでだが、ことフランス音楽に関する限り、ジョルダンはロットにとって最も信頼できる指揮者なのであろう。
なんといっても絶頂期のロットが素晴らしい。繊細さを保ちながら朗々と謳い上げる。その表現はジョルダンの棒が描くロマンティックな振幅と響きあう。ここまで真率で懐の深いショーソンは滅多に聴けないものだ。
次のラヴェルでは音色と空気が一変する。冷気がひやりと肌で感じられるかのよう。精妙なコントロールで細部までこまやかに彫琢するロットの歌唱、それを背後で彩る緻密で雄弁なジョルダンの棒が冴えまくる。この《シェエラザード》もまた絶品というほかない。
デュパルクの歌曲の管弦楽伴奏版には古くはビクトリア・デ・ロス・アンヘレス、ジャネット・ベイカー、CD時代にバーバラ・ヘンドリックス、フランソワーズ・ポレ、ソイレ・イソコスキなどの録音があるが、小生はこれまで熱心に聴いてこなかった(苦手な作曲家なのだ)。このロット&ジョルダンによる丁寧な解釈を耳にして、もっといろいろな演奏と接してみたいと思うようになった。