昨夕は家人に同伴して池袋まで出向き、シネ・リーブル池袋で上映中の《
夜中に犬に起こった奇妙な事件 The Curious Incident of the Dog in the Night-Time》を観た。一週間ずつのアンコール上映「NTL(ナショナル・シアター・ライヴ)2016」の一本。
2012年にテムズ河畔のロイヤル・ナショナル・シアターの小劇場コッツロー座(Cottesloe Theatre)で初演され、翌年のローレンス・オリヴィエ賞を総なめ(七部門受賞!)という話題作だ。原作は自閉症の少年クリストファーの冒険を綴ったマーク・ハッドンの同名小説、脚本はサイモン・スティーヴンズ、演出はメアリアン・エリオット(《戦火の馬》の人だ)、少年クリストファーに扮するのはルーク・トレッダウェイ。このたび上映される収録映像は、初演時にコッツロー座で収録されたオリジナル版だというのも嬉しい。
コッツロー座(現在はドーフマン座 Dorfman Theatre と改名された由)は国立劇場に三つある劇場中で最も狭い小屋で、小生は足を踏み入れたことがないが、普段はこんな普通の劇場である(
→これ)。それをこの芝居用に手を加え、平土間を舞台に仕立て、それを三方から客席が取り囲むように改造した(
→これ)。
英国の田舎町に住むクリストファーはアスペルガー症候群の障害を抱えた少年。父親との確執の果てにロンドンに暮らす母を訪ねて旅する。外界との接触を苦手とする彼にとっては経験したことのない大冒険旅行だ。その一部始終が彼の知覚に寄り添うように舞台上で目くるめく展開される。観客はまるで彼自身になってしまったかのごとく、道中クリストファーの五感が受け止めた周囲の世界をつぶさに追体験することになる。轟音と喧騒の渦巻く未知との遭遇である。
平土間には適宜いくつか箱型の椅子が置かれるほかは一貫して裸舞台。そこに入念なプロジェクション・マッピングが施されて駅のプラットホームや列車内やロンドン市内の雑踏が現出する(
→これ、
→これ、
→これ)。あとは主人公の機敏で変幻自在の所作と、脇役たちの的確なレスポンス。最新の舞台技術と訓練された身体表現とが絶妙なアマルガムを造り出すところに、この舞台の妙諦があるのだろう。
こういう上演映像を前にしてはただ一言「これは必見だ!」と呟けば、それでもう充分なのだ。臨場感では実演に及ばないだろうが、真上からの俯瞰を含め、的確なキャメラ・アングルは、研ぎ澄まされた演出の冴えを余すところなく捉えている。この舞台がオリヴィエ賞の七部門を制覇したのは当然だろう。池袋での上映は今週金曜まで。19:30からの一回のみ。