好評につき、というわけでもないのだが、行きがかり上まだ気持ちが収まらないので、《ひとりぼっちの青春》関連の旧稿をもう少し探ってみることにした。
三回連続で映画《ひとりぼっちの青春》とその原作者ホレス・マッコイについて書き綴ってから二年後、小生は旅先のロンドンの宿舎で思いがけない訃報に接した。そのとき綴った追悼文を再録しよう。2008年5月の記事。
27日の早朝、荷造りを終え、出発を目前にしたグリニッジの宿で、BBCの定時ニュースを観ていて、思いがけずシドニー・ポラックの訃報を聞いた。癌で闘病生活を送った末、ロサンゼルスの自宅で家族に看取られての静かな死だったらしい。享年七十三。
シドニー・ポラック作品といえば、やはりバーブラ・ストレイザンドとロバート・レッドフォードが共演した《追憶 The Way We Were》(1973)か、同じレッドフォードがメリル・ストリープと演じた《愛と哀しみの果て Out of Africa》(1985)ということになろうか。ダスティン・ホフマンの女装姿がたまらなく可笑しいコメディ《トッツィ Tootsie》(1982)を思い出す人もいよう。
だが小生にとってポラック監督の名は、何をさておいてもまず、《ひとりぼっちの青春 They Shoot Horses, Don't They?》(1969)という忘れがたい名作によって銘記される。大恐慌時代のハリウッド近傍で昼も夜も休みなく繰り広げられる壮絶なマラソン・ダンス。そこに参加した老若男女の愛憎模様を描き出した哀切な人間ドラマだ。二年前に書いたレヴューをお読みいただこうか(→馬だったら撃つでしょう?)。
大学一年のとき名画座でこれを観て、ジェーン・フォンダという女優がいっぺんに好きになった。彼女は全篇にこりともせず、ひたすら生き残ることの闘いに明け暮れ、ついには敗れ去っていく。そう、グロリアという名の女性だった。「栄光」という名の敗残者なのである。
その後のポラックがどんな駄作を撮っても、小生は決して彼を悪し様に貶すことができなかった。なにしろ、「あの一本」を撮った監督なのだから、という、ただそれだけの理由からだ。
グロリアを生み出した不世出の映画監督に、死後の栄光がありますように! 出典/シドニー・ポラックに栄光あれ! (2008年5月28日投稿)