どうやら拙ブログが十周年を迎えたらしい。昨日のことだ。だからといって何を祝うでもないが、折角なのできっかり十年前の旧稿をば引っ張り出して、そのまま再録してみよう。十年一昔というが、小生の作文は少しは上達しただろうか。
《ひとりぼっちの青春》(シドニー・ポラック監督、1969)という忘れがたい映画がある。大学一年のとき(1971年)、高田馬場パール座(東京にいくつもあった名画座の一つ)にイザドラ・ダンカンの伝記映画を観に行って、二本立ての片割れとして偶然めぐりあった。アメリカン・ニューシネマの知られざる傑作である。
大恐慌直後の1932年、ハリウッドにほど近い西海岸には、仕事にあぶれた老若男女が数知れずたむろしていた。これに目をつけた興行主が途方もないショーを企てる。はぐれ者の男女にカップルを組ませ、マラソンダンスを競わせる。文字どおり不眠不休で、夜となく昼となく、ひたすら踊り続けさせるのだ。一週間、十日、一か月・・・。疲労困憊し、精も根も尽き果てた参加者は、くず折れるようにつぎつぎ脱落していく。
行きずりの主人公たち(ロバートとグロリア)はたまたまここで出会ってカップルを組み、過酷な状況のなかで互いに励ましあい、惹かれあっていく。だが、この興行のからくり(勝利者にも賞金が出ない)を知るに及んで、二人は悄然と会場を後にする。すべての望みを失ったグロリアはバッグから短銃を取り出し、自らを撃とうとするが、どうしても引金が引けない。傍らのロバートは懇願されるまま、彼女の頭に銃口を向ける・・・。
駆けつけた警官が呆れ顔で詰問する ──「お節介者め、なんでこんなことをしでかしたんだ」。するとロバートはこう呟くのだ。「馬だったら撃つでしょう?(They shoot horses, don't they?)」。
どうにも救いのない結末である。にもかかわらず、十八歳の小生はすっかりこの映画の虜になった。人生とはそもそもマラソンダンスなのではないか。傷ついた馬は苦しませず、撃ち殺してやるがよい・・・。グロリアを演じたのはジェーン・フォンダ。《バーバレラ》とはまるで別人のよう。人生に闘い疲れた女を完璧に演じきり、長くわが最愛の女優となる。
《ひとりぼっちの青春》(原題はずばり They Shoot Horses, Don't They?)は、その後ずっと幻の作品だったが、今ではDVDで容易に観られる(→これ)。
・・・と、ここまでが実は前置き。このあと本題に入ろうと思ったが、いささか疲れた。続きは明日にしよう。 出典/馬だったら撃つでしょう? (2006年6月5日投稿)