ここ数日の外出で疲れが溜まっていたのだろう、なかなか起き出せず朝寝坊。愚図愚図しているうちに空模様に陰りが出て、家人と午後の散策に出たら強い海風が吹きつのって寒いのなんの。千葉界隈でもそこそこ桜は咲いているが、とても花見の陽気ではない。花冷えという言葉が口をつく。
そんなわけで早々に帰宅し、途中の和菓子屋で買った桜餅をお八つに、家人がストーヴを点けた。なにか身も心も春らしく和むような音楽をと物色。少し前に英国から届いたこんなCDをかけてみた。
"Made in Britain -- John Wilson"
ウィリアム・ウォルトン:
《スカピーノ》序曲
ジョージ・バターワース:
英国牧歌 第一番
英国牧歌 第二番
フレデリック・ディーリアス:
楽園への歩み
アーノルド・バックス:
幸福な森 The Happy Forest
エドワード・エルガー:
愛の挨拶
ヴォーン・ウィリアムズ:
イングランド民謡組曲
■ 行進曲「日曜になれば十七歳」
■ 間奏曲「マイ・ボニー・ボーイ」
■ 行進曲「サマセットの民謡」
揚げ雲雀*
エドワード・ジャーマン:
《ネル・グウィン Nell Gwyn》序曲
ジョン・ウィルソン指揮
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
ヴァイオリン/ジェイムズ・クラーク*2010年4月7、8日、リヴァプール、リヴァプール・フィルハーモニック・ホール
Avie AV2194 (2011)
→アルバム・カヴァー星の数ほど、は大袈裟にしても、本国ではざらにある英国音楽アンソロジー。冒頭いきなり空虚に騒がしいウォルトンにやや鼻白むものの、あとは田園情緒たっぷりの管弦楽小品がたて続けに聴ける。「愛の挨拶」がちょっと浮いているが、あとは「揚げ雲雀」「楽園への歩み」といった常連曲から、バックスの「幸福な森」のような(小生には)馴染の薄い曲まで、ヴァリエーション豊か(というか些か無節操)に集めた、やや雑駁だがそれなりに愉しめる一枚。
実を申せば、小生はこのディスクのしんがりに収められたエドワード・ジャーマン Edward German の「ネル・グウィン」序曲が聴きたくて本盤を取り寄せた。標題のネル・グウィンとは英国王チャールズ二世の寵姫の名。この女性に取材したアンソニー・ホープの芝居《イングランドのネル》のためジャーマンが書いた付随音楽(1900)に由来する作品だそうで、一か月ほど前に小生はBBCのラヂオ番組でたまたま耳にして「ほほう」と歓声を挙げた。
この騒々しく些か安手の音楽の途中に、なんと英国民謡「ある朝早く Early One Morning」がそっくりそのまま組み込まれているのである!(この民謡については、この旧稿をご参照あれ。
→「ある朝早く」は嘆きの歌)。グレインジャーよりもシリル・スコットよりも前に、ジャーマンがこれを編曲して自作に用いていたとは全く知らなんだ。とにかく、ちゃんと聴いてみようと思い立った次第。
このほかヴォーン・ウィリアムズの「イングランド民謡組曲」の一曲目はグレインジャーも編曲した「日曜になれば十七歳 Seventeen Come Sunday」だし、二曲目には「緑の茂み Green Bushes」がちらと姿を覗かせるほか、誰もが知るディーリアス「楽園への歩み The Walk to the Paradise Garden」も、いつもと細部が異なるヴァージョン(ティンパニを強調)が聴ける。英国音楽好きには愉しみどころ満載のアルバムなのだ。
ジョン・ウィルソンはミュージカル物を得意とする英国人で、BBCプロムズの常連。2012年に手兵ジョン・ウィルソン・オーケストラを率いて《マイ・フェア・レディ》全曲を指揮したのは記憶に新しい。本盤のような英国音楽アンソロジーが他にあるか寡聞にして知らないが、曲によっては掘り下げの浅さが垣間見られるものの、なかなかの秀演だと思う。アルバム・カヴァーが凡庸なのは残念。