昨日は家人とその弟君に付き添って茨城まで往還したから、その疲れがまだ残るのだが、今週末で終わってしまう展覧会があるので否も応もなく外出。清々しく晴れた日なのでいそいそ家を出たが、吹く風がまだ肌に冷たい。
JRと地下鉄と私鉄と路線バスを乗り継いではるばる出向いたのは板橋区立美術館。何年ぶりなのかわからぬほど久しぶりの訪問だ。「婦人之友社『子供之友』原画展」を観る。戦前の大正期から戦時下まで、自由学園の羽仁夫妻の肝煎りで刊行された子供絵雑誌を特集した展覧会。
ただし上のタイトルは正しくは副題であり、本題は「描かれた大正モダン・キッズ」という浅薄なものだ。まあ、名は体を表すのとおり、時代風俗の表層をなぞっただけの、ごく底の浅い展示。もちろん、この時代の児童書の表紙絵や挿絵の原画がまとまった形で婦人之友社に残されたこと自体が奇蹟的なのだから、その眼福に浴せる幸せは何物にも代えがたい。とはいうものの、こんなふうに工夫もなく原画や画家名をただ羅列すれば事足るのだろうか? カタログを繙いたところで、北沢楽天、武井武雄、村山知義、深沢紅子らの画業への理解は一向に深まらず、頁を繰っても通り一遍の常套的な記述が開陳させるのみ。残念だなあ。
美術館をあとにしながら独り呟く。この雑誌はマルシャークの童話《しましまのおひげちゃん》が逸早く原文のロシア語から、ほぼ完全な形で、しかもレーべジェフの挿絵入りで翻訳掲載されたのではなかったか? 1930年代初頭そういう冒険的な試みが可能な場だった、という一事だけからも、『子供之友』に関してもっと何か本質的に重要な考察が引き出されはしまいか。対象が子供向けの絵雑誌だからといって、担当学芸員のおつむがお子ちゃま並みでは困るのだ。
このまま千葉へ引き返すのでは癪なので都営地下鉄で神保町へ直行。俄かに空腹を覚えてハンバーグ屋で遅い大盛りランチを食し、神保町と御茶ノ水の中古音盤店を二軒梯子する。収穫は少しだがあった。スヴャトスラフ・リヒテルの初訪英時のBBCによる実況録音(1961)とか、リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団によるプロコフィエフ「第五」(Philips)とか。後者ではフィルアップされた機会音楽《ヴォルガとドンの出会い》が珍しい聴きもの。
もう一枚は、まるで知らない若手日本人ピアニストによるバッハとシュールホフというちょっと変わった選曲。今夜はこれをまず聴こう。
昨日の里帰りで土産に頂戴した大粒の完熟苺を音楽のお供に。熟してから摘み取るから流通に耐えず、市場には決して出回らないという逸品。ジューシーな甘さにほっぺたが落ちそう。これはもうたまらぬ美味しさだ。