よほど眠りが浅かったのか、今朝は五時半過ぎに目が覚めた。表はすでに明るみを帯びている。起き出してカーテンの隙間から外景を眺めて息を呑んだ。一面がほの白く靄っていて、街路灯がぼんやり燈っている以外は何ひとつ見えない。五里霧中とはまさにこれだ。空が明るくなってからも朝霧は一向に晴れない。
七時きっかりに起き出して湯を沸かし珈琲を淹れ、フライパンでベーコンエッグを拵えて、食パンを二枚カリッと焼いて簡便な朝食。まだ家人は起きてこない。八時、ささっと身支度をして家を出る。
こんな時刻になっても霧はまだ白く垂れ込めたままだ。公園をつっきって歩くにつれ、木立が遠近に応じ薄灰色の濃淡を帯びてうっすらと立ち現われる。広重の《東海道五十三次》保永堂版の「三島朝霧」(
→これ)か、ユーリー・シュルヴィッツの絵本《よあけ》(
→これ)の場面のあれこれか。ゆかりなくも既視感を掻き立てられる。遠くの高層ビル群は深い靄にどっぷり深く沈み込んだままだ。
駅前から乗り馴れないバスに揺られて二十分。街外れで下車、そこから数分とぼとぼ歩くと無愛想なコンクリートの建物が見えてきた。一体全体どうしてこんな辺鄙な場所に税務署を建てたのだろう。心ない愚劣な役人の所為である。
すでに建物内は確定申告の人波でごったがえしていたが、七、八分ほど行列に並んだら順番が来て、申請は拍子抜けするほど短時間で済んだ。いやなに、わざわざ申告するほどの収入があるわけでないが、還付金がほんの少し戻るというので、煩を厭わず書式を整え、朝っぱらから出向いた次第。
午前中に帰宅できたが、霧はまだうっすら棚引いていた。なんだかぐったり草臥れてしまい、夕方まで矢鱈と長い午睡をむさぼって、家人にほとほと呆れられた。