二月になっても訃報は止まらない。いやはや。今度はリトアニアが誇る名指揮者
サウリュス・ソンデツキス Saulius Sondeckis が亡くなった。
1960年にヴィリニュスでリトアニア室内管弦楽団を創設し、同楽団とともに国際的な令名を馳せた。最も人口に膾炙した彼の音盤はといえば、世間的には「タブラ・ラサ」「プサロム」ほかアルヴォ・ペルトの名演奏だろうが、今たまたま手許にあって小生がすぐ取り出せるのは自国の手兵との共演盤ではなく、彼が第二の本拠地としたレニングラード=ペテルブルグで1989年に創設したエルミタージュ美術館附属のオーケストラを振った一枚だ。
"Tchaikovsky: Serenade, Arensky: Variations / Sondeckis"
チャイコフスキー:
弦楽セレナード
《雪娘》より メロドラマ
アンダンテ・カンタービレ
アレンスキー:
チャイコフスキーの主題による変奏曲
チャイコフスキー:
悲歌
サウリュス・ソンデツキス指揮
サンクト・ペテルブルグ・カメラ―タ(エルミタージュ国立美術館管弦楽団)1993年4月、7月、サンクト・ペテルブルグ放送スタジオ
Sony / St. Petersburg Classics SMK 58 976 (1994)
→アルバム・カヴァーソ連における室内楽団指揮の草分けで、彼の先輩格であるルドルフ・バルシャイとは対蹠的に、ソンデツキスの芸風には尖ったところがなく、温和で平穏。ときに鄙びて野暮ったく感じさせる。だがそれこそ彼の持ち味なのだろう。
同じこの "St. Petersburg Classics" シリーズにあったショスタコーヴィチの「バビ・ヤール」交響曲のディスク(
→これ)では些か裏目に出たように思うが、チャイコフスキーに因んだ本盤ではソンデツキスの個性がむしろ奏功し、派手さはないが、掬すべき滋味豊かな演奏をさり気なく披歴する。
本CDは選曲がたいそう好もしい。ただのチャイコフスキー名曲集に留まっていないのだ。チャイコフスキーの「セレナード」にアレンスキーの「チャイコフスキー変奏曲」を組み合わせるところまでは誰でも考えつこうが、そこにオペラ《雪娘》からの嫋々たる小品(寡聞にして小生は初めて聴く)を織り交ぜ、最後を「エレジー」で秘めやかな余韻とともに締めくくる。まるで一夜の(と云うには些か短いが)演奏会を思わせる秀逸なプログラム編成だ。
急なことで深く考えもせず本CDを聴いたが、哀しみにそっと寄り添うような「悲歌」の絶妙な演奏を耳にしたとき、思わず知らず涙を禁じ得なかった。
八十七歳の大往生だそうだが、ご冥福をお祈りする。激動の時代、小国と大国の狭間で音楽の灯を絶やさなかったソンデツキスの名をずっと忘れずにいたい。