(承前)
長々と綴ってきた「マルティノンのエラート録音を年代順に」鑑賞するプロジェクトもいよいよ終盤である。1971年にもたれた最後の二つのセッションから。
CD1)
ルーセル:
《蜘蛛の饗宴》
小組曲
ジャン・マルティノン指揮
フランス放送国立管弦楽団
1971年1月14, 15日、パリ、ラディオ・フランス、スタジオ103
→オリジナルLPCD7&8)
デュカ:
《ラ・ペリ》
《魔法使の弟子》
序曲《ポリュークト》
ジャン・マルティノン指揮
フランス放送国立管弦楽団
1971年9月21~23, 27日、パリ、ラディオ・フランス、スタジオ103
→オリジナルLPfrom Erato 0825646154975 (2015, 14CDs)
マルティノンは1968年から71年にかけて、エラート・レーベルのために総計十一枚のLP録音を行った。(ランパルとのハチャトゥリヤンの協奏曲を除けば)いずれも近現代のフランス音楽ばかり。そのうち実に四枚(《エネアス》/第二交響曲ほか/《バキュスとアリアーヌ》/《蜘蛛の饗宴》ほか)がルーセルで占められているのは、ミュンシュ亡きあとマルティノンが恩師ルーセルの音楽を広める責務を自覚した故であろうか。ここに聴く《蜘蛛の饗宴》と「小組曲」を組み合わせた一枚が彼にとって最後のルーセル録音になってしまう。
演奏はこれまでの三枚と同様、いや、それ以上に仄かで精妙な、霊感に満ちたものだ。組曲でなく、バレエの筋が辿れる全曲版で奏されるのも嬉しい。朧げな記憶で済まないが、当時この曲の全曲LPはアンセルメ盤くらいしかなく、モノーラル時代にマルティノンがラムルー管弦楽団と録音したのも組曲盤だった筈だ。フィルアップの「小組曲」も滅多に聴けない曲。小生は昔この演奏で初めて知った。
そしてデュカ。とりわけ《ラ・ペリ》が素晴らしく響きのよい秀演だと思う。小生はこの作曲家が不得意なので、自信をもって云いきれないが、マルティノンは並々ならぬ親近感をもって挑んでいるように感じられる。大の苦手である《魔法使の弟子》ですら上等な音楽に聴こえるのは、やはり指揮者の力量と云うべきか。
このデュカ・アルバムをもってマルティノンとエラートとの契約は終了し、その後はもっぱらEMI録音が主になる(ほかにドイツ・グラモフォン、米ヴォックスにも録音した)。実はこのデュカ以前の1971年7月、彼はEMIのためにオネゲル作品を録音しており、これを皮切りに、エラート企画のいわば続篇を他社でも継続した(フローラン・シュミットやイベールの稀少な作品など)。1972年2月には滅多に聴けないデュカの交響曲まで録音している。オルケストル・ナシオナルとはこのほかベルリオーズの《幻想》と《レリオ》、ドビュッシーの管弦楽全集、サン=サーンスの交響曲全集があり、パリ管弦楽団と組んだラヴェルの管弦楽全集などの大物録音が陸続と続く。彼はEMIの看板アーティストとなったのである。
こうしてフランスを代表する巨匠指揮者として名実共に頂点に立ったかにみえたマルティノンだが、最晩年はなんとも不遇だった。どういう事情か詳らかでないが、1973年にフランス放送国立管弦楽団の常任指揮者の地位を追われ、オランダのデン・ハークのレジデンティ管弦楽団の常任という役不足な地位に甘んじた矢先、1976年3月、呆気なく癌で急逝してしまう。六十六歳の働き盛りだった。