合唱曲のディスクといえば、今年の最大の収穫はこの一枚ではなかろうか。どういうわけかレヴューし忘れていたので、結果的に「とっておきの」一枚になってしまった。2015年が終わらないうちに思い出せてよかった。
"Béla Bartók: Complete Choral Works"
バルトーク:
二十七の合唱曲集 BB 111(児童と女声のための)*
四十二の合唱曲集 (男声と混声のための)**
■ 夕べ BB 30
■ 二つのルーマニア民謡 BB 57
■ 四つの古いハンガリー民謡 BB 60
■ スロヴァキア民謡 BB 77
■ 四つのスロヴァキア民謡 BB 78
■ セーケイの民謡 BB 106
■ 過ぎ去った時より BB 112
■ 四つのハンガリー民謡 BB 99
● 四つの古いハンガリー民謡 (1910版)
● スロヴァキア民謡 (ハンガリー語版)
● 四つのスロヴァキア民謡 (ハンガリー語版)
ラースロー・ドブサイ指揮
ブダペスト・リスト音楽院 選抜学生合唱団*
エートヴェーシュ・ロラーンド大学 選抜学生合唱団**
ピアノ/ゾルターン・コチシュ (BB 78)2008年9月1~5日、ブダペスト、リスト音楽院 楽堂*
2008年1月28~31日、6月8~11日、ディオーシュド、フェニックス・スタジオ**
BMC Records BMC CD 186 (2CDs, 2014)
→アルバム・カヴァーバルトークが創作の絶頂期にあった1935~36年に作曲した「二十七の合唱曲」は、小生がこよなく愛してやまぬ特別の音楽である。バルトークの至高の傑作であるばかりか、人声のために書かれたあらゆる時代の楽曲のなかで最も清らかで純真無垢、最も切々と心に迫るものだとすら思える。折角この世に生まれて、これを聴かずして人生を過ごすなんて勿体ない。
この「二十七の合唱曲」には優れたディスクが目白押しである。LP時代には
ミクロ―シュ・サボーがジェール女声合唱団を率いた名盤があり、CDには本盤と同じ
ラースロー・ドブサイ指揮の旧盤、
デーネシュ・サボー指揮のもの、
ミクロ―シュ・サボーが珍しくフランスの合唱団を振ったもの(異色だが秀演)、更にはわが
福島コダーイ合唱団のディスクまであって、どれも甲乙つけがたい歌唱なのだ。
「二十七の合唱曲」の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。たまらなく懐かしく人間的、それでいて研ぎ澄まされ精妙。鄙びた民謡でありながら尖端的な現代音楽(20世紀前半の、だが)でもありうる稀有な存在だ。本盤で聴かれる歌唱は申し分ないものだが、二枚目のディスクでは、そこに至るまでのバルトークの合唱曲における全軌跡が収められているのがまことに重宝。バルトークの合唱曲をまだ知らないという方々に、声を大にしてお薦めしたい。これこそ奇蹟のような宝だ。