続いてターンテーブルに載せたのは歌曲集「夏の夜」。季節外れは承知の上だ。
"Berlioz/Debussy: Frederica von Stade"
ベルリオーズ:
夏の夜
ドビュッシー:
選ばれし乙女*
メゾソプラノ/フレデリカ・フォン・シュターデ
朗唱/スーザン・メンツァー*
タングルウッド音楽祭合唱団*
小澤征爾指揮
ボストン交響楽団1983年10月16、17日、ボストン、シンフォニー・ホール
Sony MK 39098 (1984)
→アルバム・カヴァー先のハイティンクのシュトラウスと同様、このCDも何故か目にする機会が乏しい。ことさら稀覯盤と呼ぶほどではないが、思い出されることの稀な演奏といえるだろう。ずっと永いこと廃盤だし、中古でも滅多に見つからない。
米国のメゾソプラノ、フォン・シュターデ(この発音でいいのだろうか)はフランス物を十八番とし、フォーレ、ドビュッシー、プーランクの歌曲、「オーヴェルニュの歌」、トマやマスネーの歌劇、さらにはドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》のヒロインまで歌っている。そのなかで当CDの影が薄いのは残念な気がする。なかなか魅力的な歌唱だからだ。とりわけ「夏の夜」が。
小澤征爾が若い頃からベルリオーズを大の得意とし、「幻想」のみならず「レクイエム」や《ロミオとジュリエット》《ファウストの劫罰》などの大作を録音したのは周知のとおり。その彼による「夏の夜」の伴奏指揮だから期待できる。丁寧な表情づけと繊細な歌い回し、フォン・シュターデにピタリと付けて間然とするところがないのは流石だ。申し分なく美しいベルリオーズだが、慎重に構えすぎて音楽が小ぢんまりミニチュアめくのも、いかにも小澤らしい特徴といえる。
次の「選ばれし乙女 La damoiselle élue」は貴重な録音である。なにしろ小澤はこの曲のほかドビュッシーは何ひとつ録音していないからだ。そんな莫迦なと思わ向きもあろうが、彼のディスコグラフィをみると、「牧神」も「夜想曲」も「海」も「映像」も「遊戯」も存在せず、当然ながら《ペレアス》や《聖セバスティアヌス》にも手を染めていない事実に驚かされる。これは一体全体どうしたことか? ラヴェルについては管弦楽曲全集まで残すほどなのに、ドビュッシーに対するこの不熱心は全くもって意外というほかない。
繰り返すが、小澤が正規録音したドビュッシーは「選ばれし乙女」があるのみ。このフォン・シュターデ盤と、もうひとつシルヴィア・マクネアを独唱者とするPhilips盤があるだけなのだ。どうですか、そう聞くと俄然、存在意義がいや増して、演奏が聴きたくなってくるでしょう? そうでもない? 小生はその興味から、このディスクを中古屋の棚でさんざん捜した挙句、先日ようやく巡り合ったところだ。