今年もあと残すところ十日を切った。こうなるともう雪崩を打つように大晦日に流れ込むことになろう。収穫しながら未レヴューのCDを少しでも多く紹介しておこうと考えた次第。まずはこの一枚から。
"Dutch Masters Volume 48/ Bernard Haitink -- Strauss"
シュトラウス:
ドン・キホーテ*
四つの最後の歌**
チェロ/ティボール・デ・マヒュラ*
ヴィオラ/クラース・ボーン*
ソプラノ/グンドゥラ・ヤノヴィッツ**
ベルナルト・ハイティンク指揮
アムステルダム・コンセルトヘバウ管弦楽団1977年5月9日*、1968年7月2日(「オランダ音楽祭」実況)**、
アムステルダム、コンセルトヘバウ
Philips 462 947-2 (1999)
→アルバム・カヴァーオランダの名指揮者ベルナルト・ハイティンクの名は拙ブログでは滅多に登場しない。今や欧州楽壇の長老として尊敬を一心に集める大家だが、小生のなかでは60年代末ロンドン・フィルを率いて来日した若造という印象が強く、その後はあまり感心した記憶がないまま今日に至る。架蔵するディスクもほんの数点あるかなきか。拙宅ではごくマイナーな存在なのである。
今年になって見つけた本盤も、ヤノヴィッツを独唱者とする「四つの最後の歌」(実況録音で本CDが初出)故に手に取った次第。ハイティンクは単なる伴奏指揮者の分際に過ぎない。申し訳ないが脇役という位置づけなのだ。
ところがどうだ。期待せずに聴き始めた「ドン・キホーテ」が実に好もしい秀演である。あくまでも自然で端正で、表情過多に陥ることのないシュトラウス。ドン・キホーテとサンチョ・パンサの二人が突出することなくオーケストラの響きに程よく溶け込んでいる。それもそのはず、二人の独奏者はコンセルトヘバウの首席奏者たちなのだ。聞くところによればこれはチェロのマヒュラの勇退を前にした記念録音なのだとか。なんという美しい音色のアンサンブルだろう。ハイティンクの指揮はその美しさを最大限に引き出したということになろうか。
後半はお目当ての「四つの最後の歌」。芳紀三十歳のヤノヴィッツの声は一点の翳りもなく光り輝いている(とりわけ冒頭の「春」)。二曲目以降さすがに細部の彫琢に欠けるところが気になるのは、無意識のうちに五年後のカラヤンとの正規録音と比較してしまうからだろう。だが若やいで屈託ないこの歌唱の魅力もまた抗しがたい。素直に謳い上げた「眠りに就こうとして」もいいものだ。
ハイティンクの伴奏指揮は手堅いというか、まあ普通の無難な出来。小生がTVで観た「若造」の来日公演はまさにこの頃だった。
20世紀の終わりにフィリップスがオランダ人演奏家の自社音源を用いてどっと出した「オランダ巨匠 Dutch Masters」シリーズは今も中古でよく目にする。だがこのハイティンク/シュトラウス編はどういうわけか滅多に見ない。もはや稀覯盤の一種かもしれない。ハイティンクには「四つの最後の歌」の正規録音がなく、わざわざ放送局のアーカイヴ録音を組み入れた本CDはその意味でも値千金なのだ。