今年はオーソン・ウェルズ生誕百年なのだという。世事に疎い小生はフィルムセンターの特集上映で、ようやくそのことに気づいた体たらくである。今日は家人とともに赴いて 《ジス・イズ・オーソン・ウェルズ
This Is Orson Welles》(2015)なる最新のドキュメンタリー映画を鑑賞。
それに先立って有名なニッカ・ウヰスキーのTV・CMを九本(!)立て続けに鑑賞。彼としては賃仕事として渋々引き受けたに違いなかろうが、にもかかわらず揺るぎない存在感と、威厳と外連味たっぷりの語りに圧倒される思いがした。
さあて、こんな日だから就眠前にかける音楽は自ずと決まってしまう。不世出の天才のデビュー作に新進気鋭の作曲家が書いたあの驚くべき音楽だ。
"Bernard Herrmann Anthology, volume 2:
Citizen Kane -- Original 1941 Motion Picture Score"
バーナード・ハーマン:
映画《市民ケーン》
■ 前奏曲
■ ナイト・クラブのスーザン(雨のシークエンス)
■ サッチャーの書庫(連禱)~資料閲覧と雪の情景~母の犠牲~チャーリーとサッチャーの邂逅
■ ギャロップ
■ サッチャーへの溶明~資料再び~バーンスティンの語り
■ ケーンの新オフィス~カーター退場~クロニクル紙のスケルツォ
■ バーンスティンのプレスト
■ ケーンの帰還~ワルツの披露
■ 夕暮れの語り
■ 主題と変奏(朝食のモンタージュ)
■ ケーンとスーザンの邂逅~スーザンの部屋~母の回想
■ スーザンの許への旅~ゲティスの出発~ケーンの結婚
■ 《サランボー》のアリア*
■ リーランドの解雇
■ ナイト・クラブのスーザン(夜明けの場面)
■ オペラのモンタージュ*
■ ザナドゥ~ジグゾー・パズル(無窮動)~再びザナドゥ
■ ケーンのピクニック~スーザンの離反
■ エル・ランチョ(再び夜明けの場面)
■ 硝子玉
■ 大団円
ソプラノ/ロザムンド・イリング*
トニー・ブレムナー指揮
オーストラリア・フィルハーモニー管弦楽団1991年4月、メルボルン、アラン・イートン・スタジオ
Preanble PRCD 1788 (1991)
→アルバム・カヴァー久しくスクリーンで観ていないから、どの楽曲がどの場面に対応するのかつぶさに思い出せないのだが、ハーマンの音楽は精緻を極め、微に入り細を穿つように各シーンを彷彿とさせる。その喚起力の強さに感嘆させられる。
全体としては荘重で夢幻的な追憶のムードが色濃いのだが、ときには快活なダンス・ミュージックもあれば激越で濃密なオペラの一場も、うっとりするような愛の情景もある。オーケストレーションの練達は実に驚くべきものだ。時にハーマン二十九歳、ウェルズ二十五歳。奇蹟のようなコラボレーションに息を呑む。
本ディスクはサンタ・バーバラのカリフォルニア大学のバーナード・ハーマン・アーカイヴに秘蔵される自筆総譜に基づいた史上初の《市民ケーン》オリジナル・スコア版の録音である。本編からは省かれた数曲(
下線のもの)をも含む。
その後1999年になって更に遺漏なき完全な録音(ジョエル・マクニーニー指揮、Varèse Sarabande盤)が出現して些か価値が減じたとはいえ、同じ趣旨による《偉大なるアンバーソン家》盤(
→これ)とともに、ハーマン再評価への道を拓いた貴重な企てといえよう。企画者はジョン・ラッシャー(John Lasher)。
ついでにもう一枚、《市民ケーン》の音楽に初めて光を当てた重要な録音を。
"Citizen Kane: The Classic Film Scores of Bernard Herrmann"
バーナード・ハーマン:
《危険な場所で》(ニコラス・レイ監督作品/1951)
《市民ケーン》(オーソン・ウェルズ監督作品/1941)
■ 前奏曲~ザナドゥ~雪の情景
■ 主題と変奏(朝食のモンタージュ)
■ 《サランボー》のアリア*
■ 薔薇の蕾とフィナーレ
《十二哩の暗礁の下に》(ロバート・D・ウェブ監督作品/1953)
《戦慄の調べ》(ジョン・ブラーム監督作品/1944)
《蛮地の太陽》(ヘンリー・ハサウェイ監督作品/1953)
ソプラノ/キリ・テ・カナワ*
チャールズ・ガーハート指揮
ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団1974年6月11~13日、ロンドン、キングズウェイ・ホール
RCA Victor 0707-2-RG (1974/1989)
→アルバム・カヴァーハーマンの映画音楽アンソロジー、それも人口に膾炙したヒッチコック監督作品ではなく、キャリア初期の忘れられた諸作品をオリジナル・スコアに遡って世界初録音した劃期的なディスク。ジョージ・コーンゴールドが企画し、録音にはハーマン御大が監修者として立ち会った由。慧眼にも無名時代のキリ・テ・カナワを起用。「薔薇の蕾」の橇をあしらった初出LPのアルバム・カヴァーが忘れがたい(
→これ)。