熊倉一雄の訃報を聞く。八十八歳というから大往生の部類なのだろうが、やはり途轍もなく哀しい。だってほかでもない、あの海賊トラヒゲの死なのだもの。早世したドン・ガバチョの
藤村有弘を筆頭に、ムマモメムの
はせさん治も、マシンガン・ダンディの
小林恭治も、ライオンの
滝口順平も疾うに鬼籍に入り、ひょうたん島民の大人たちはもうサンデー先生しか存命しない。まあ放映から半世紀も経ってしまったのでだから致し方ないとはいえ、時の無情さに思わず溜息が出る。
《ひょっこりひょうたん島》の作者(のひとり)だった井上ひさしが熊倉一雄と意気投合し、熊倉の依頼でデビュー作《日本人のへそ》を書き下ろしたことは夙に知られている。不世出の劇作家の誕生を促したのだから、その功績たるや計り知れない。《11ぴきのネコ》の初演もたしか熊倉の演出だったはずだ。これらの芝居を彼の劇団「テアトル・エコー」で観る機会を逃したことが悔やまれてならない。
小生が生身の熊倉一雄の舞台に接したのは唯一度きり。恵比寿にあるテアトル・エコーの小さな劇場でカレル・チャペックの《白い病気》という寓話劇を観た。重たい主題の政治諷刺劇だったが、歌のふんだんに入ったミュージカル仕立てで楽しく演じていた。チャペック劇としては今ひとつ不満が残る上演だったのだが、それでも主役の町医者に扮して唄い演ずる矍鑠たる熊倉翁を間近に観て、不覚にも涙が出そうになった。だって声が昔とまるで同じなのだもの。それがちょうど五年前。井上ひさしが亡くなった直後だったと記憶する。
今頃あちらでは井上ひさしが新たに書き下ろした台本で、数十年ぶりに名コンビを復活させたガバチョとトラヒゲが面白おかしく掛け合いを演じているのではないか。そうでも思わないと、悲しくてやりきれない。
今夜はやはりこれを聴こう。
→オレは海賊 →ドン・ガバチョの未来を信じる歌何を隠そう、《ひょっこりひょうたん島》挿入歌集のCDだって架蔵するのだ。
そして、最後にもうひとつ、極めつきはやっぱりこれ。
→勉強なさい