ここ二日ほど暑さがほんの僅か和らいで、昨夜は久しぶりに雨が降った。まさしく旱天慈雨といったところか。だがまだ八月十日。旧暦で立秋だからといって油断は禁物だ。だから酷暑を凌ぐ音楽をもう少し続けよう。
"Evening Songs / Delius and Ireland:
Songs arranged for cello and piano"
ディーリアス: 日没
アイアランド: 春の哀しみ
ディーリアス: ハイ・ホール・ガーデン*
アイアランド: 夕べの歌* ☆
ディーリアス: 後宮の庭にて
ディーリアス: 愛の哲学
アイアランド: 海の熱気
ディーリアス: 高き山々を越えて
アイアランド: 聖なる御子
ディーリアス: セレナード ~《ハッサン》
ディーリアス: 長い長い歳月を経て
アイアランド: 赤子
アイアランド: 三羽の鴉
ディーリアス: 小鳥
アイアランド: 希望
アイアランド: 若者の愛
ディーリアス: 子守唄
アイアランド: 夏の企み
ディーリアス: そなたの碧き眼で
アイアランド: 彼女の歌
アイアランド: 夏の森にて* ☆
チェロ/ジュリアン・ロイド・ウェバー +程 嘉欣 Chéng Jiāxīn(☆)
ピアノ/ジョン・レネハン2011年9月6~8日、マンモスシャー、ワイアストーン・リーズ
Naxos 8.572902 (2012)
→アルバム・カヴァー夏といえばディーリアス。グレ=シュル=ロワン川に面した庭園や川面で夕涼みする「夏の庭園で」「川の上の夏の夜」「夏に川の上で歌うために」がすぐ思い浮かぶし、ずばり「夏の歌 Song of Summer」と題された楽曲だってある。
それらのディスクを引っ張り出そうとして、いかにも発想がありきたりだと考え直し、最近やっと手にしたCDに思い当たる。生誕百五十年の記念年に出た(そうは謳っていないが)アニヴァーサリー・アルバムである。ただし、ディーリアスひとりではなく、彼に私淑したジョン・アイアランドとの「ふたりアルバム」。これにしよう。「英国音楽なぞ存在しない」と嘯いたディーリアスが歓ぶかどうか知らないが。
英国のチェロ奏者ジュリアン・ロイド・ウェバー(云うまでもなくアンドルー・ロイド・ウェバーの三つ違いの実弟だ)はディーリアス音楽の熱烈な支持者で、実演でも録音でも彼のチェロ協奏曲やチェロ・ソナタを頻繁に採り上げてきた(小生も記念年の2012年初め、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールで協奏曲の実演を聴いた)。このアルバムは少し趣向を変えて、ディーリアスとアイアランドの歌曲を編曲し、チェロ小品集としてアルバム化したもの。
アイアランドの歌曲にまるきり不案内、ディーリアスの歌曲だってろくに知らない小生なぞは、次々に繰り出される絶美の旋律にただただ聴き惚れるばかり。交互に出るどれがディーリアスでどれがアイアランドなのかも判別できない体たらくだ。人口に膾炙した劇音楽《ハッサン》の「セレナード」で、ああ、これは、と一息つく。
聴くところによると、昨年ロイド・ウェバーは実演から引退してしまった由。椎間板ヘルニアで肩を痛めたのが原因なのだとか。勿体ない話である。このアルバムでも共演している中国人の愛妻とのデュオ・アルバムをもっと聴きたかった。それと、円熟の境地を示すディーリアスの協奏曲の新録音も。
お裾分けに、その《ハッサン》のセレナードを(
→ここ)。しみじみ、胸に沁みる。