疾うに締切日は過ぎてしまったが、まだ性懲りもなく執筆にかかずらわっている。本当に終わるのかは定かでない。今日で五月も終わってしまう。外は盛夏のような陽気らしいが、当方はほの暗い部屋に籠もって苦吟している。
"Efrem Kurtz Profile"
リムスキー=コルサコフ:
組曲《雪娘》
組曲《金鶏》
リャードフ:
キキモラ*
ショスタコーヴィチ:
交響曲 第一番
ハチャトゥリャン:
円舞曲とギャロップ ~《仮面舞踏会》
グリンカ:
《皇帝に捧げし命》バレエ音楽
リムスキー=コルサコフ:
ドゥビヌーシュカ
リャードフ:
バーバ・ヤガー*
魔法にかかった湖*
音楽の玉手箱*
カバレフスキー:
組曲《道化師》
プロコフィエフ:
古典交響曲
エフレム・クルツ指揮
フィルハーモニア管弦楽団
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団*1958、59、63、64年、ロンドン
EMI 7 67729 2 (1993)
→アルバム・カヴァーアルバム「パヴロヴァを讃えて」で必ずしも本領を充分に発揮できなかった指揮者
エフレム・クルツの名誉回復(?)のため、ロシア音楽の名解釈者として彼が遺した秀演を選りすぐったアンソロジー・アルバムを聴く。録音データが不明確なのが玉に瑕だが、クルツの実力を偲ぶには申し分のないセレクションである。
ディアギレフのバレエ・リュス公演には関与しなかったものの、クルツはパーヴロワのバレエ団の専属指揮者であり、バレエ・リュスの正統的な末裔たる「バレエ・リュス・ド・モンテカルロ(およびその後身のオリジナル・バレエ・リュス)の指揮を十年間(1932~42)も務めたから、アンタル・ドラーティ、ポール・ストロースと並んでロシア・バレエを身をもって会得した指揮者の代表格といえるだろう。
リムスキー=コルサコフの《雪娘》と《金鶏》の音楽は西欧ではむしろバレエ《真夜中の太陽》《金鶏》を通して浸透し、リャードフの管弦楽小品もバレエ版で人口に膾炙した経緯がある。ペテルブルグ出身のクルツは無論オペラも熟知していたろうが、ロシア・バレエ指揮者としての豊富な経験がこれらの楽曲を自家薬籠中のものとさせたのではないか。瑞々しい色彩感覚と巧緻な表情に感心させられる。
常任指揮者としてのクルツのキャリアはぱっとしない。米国のカンザス・シティ交響楽団、ヒューストン管弦楽団、そしてほんの一時期だけ英国のロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団──彼がシェフを務めた楽団は贔屓目にも二流以下ばかり。不遇をかこつ彼の力量を見抜いて録音に起用したEMI首脳陣(恐らくウォルター・レッグ)の慧眼ぶりに敬服する。
どの曲を振らせてもクルツのリズム感覚は敏捷そのもの、弛緩する瞬間が少しもない。革命後の故国と縁遠かったにもかかわらず、ショスタコーヴィチの第一交響曲は優れて音楽的な秀演だし、品のない駄作であるはずのハチャトゥリャンとカバレフスキーの通俗曲すらが高貴に生き生きと響く。練達の名人芸に脱帽だ。