やつとの思ひでカクテイシンコクを濟ませた。此の季節には決まつて氣が重いのだが、今年はいつも以上に厄介だつた。といふのも昨年に埼玉の實家を賣却した關係で、僅少ながら臨時收入があつた爲、納税義務が發生したのである。必要な書類を捜し出し、申告用紙にあれこれ數字を記入し、面倒な計算式と首つ引きで取り組んだ擧句、尠からぬ税額を納付させられる。不條理と云ふ外ない。
例年ならば源泉徴收額の大半が還付されるので、馴れない金錢計算にも耐へて頑張るのだが、今囘ばかりは勝手が違ふ。さんざん苦勞した見返りに税金を毟り取られるのだから氣が滅入る。おまけに最寄りの税務署はひどく辺鄙な遠隔地にある。にも拘らず遙々出向いたのは、偏へに「期日の3月16日を過ぎたら追懲課税」との非情な脅し文句の故である。正直なところ現今の政府には鐚一文だつて払ひたくないのが本音なのだが。
計算の得意な家人に手傳つてもらひ、徴税吏の説明を聞きながら提出書類を完成させ、這ふ這ふの體で税務署を出ると外は篠つく雨。全く泣きつ面に蜂とは正に是だ。歸宅したら總身に疲勞がどつと沸き出て、そのまま横になつて何もする氣が起こらない。どうにかやり畢へたといふ空しい虛脱感しか覺へないのだ。
逆撫でされた精神をそつと慰め癒して呉れるやうな音樂は無いものか。
"Brahms: Sonatas, Intermezzos, Capriccio"
ブラームス:
ヴィオラ・ソナタ 第一番 作品120-1*
ヴィオラ・ソナタ 第二番 作品120-2*
間奏曲 作品116-4
奇想曲 作品76-2
間奏曲 作品118-1
ヴィオラ/今井信子*
ピアノ/ハリス・ゴールドスミス
1989年6月、紐育
嘗てキャニオンから國内盤も出たと記憶するが、ぢきに廢盤となつたから今や珍しいディスクかも知れない。如何にも今井さんらしい深みのある音色で朗々と歌はれるブラームスは騷ぐ心を鎭める。彼女にはほゞ同時期(1987年2月)に英國で收録したブラームスのソナタ二曲(Chandos)もあつて紛らわしいが、此方は米國録音。他に極く初期に小林道夫と共演した第一ソナタ、コンサート・ソサエティ録音による第二ソナタ(彼女のデビュー録音か)もあつた筈だ。
其れにしてもブラームスが自作のクラリネット・ソナタ二曲を自發的にヴィオラ用のヴァージョンにも仕立て上げて呉れたのには幾ら感謝してもし過ぎる事はなからう。寧ろこつちの版で彈かれる方が一層じんわり胸に染み入るのだ。
正月早々に註文しておいたものが何處かで迷子になつてゐたらしく今日やつと屆いた。兎に角どうにか聽けて嬉しい。地獄で佛の心持。