再び散策がてら近傍の公園の梅を見にいったら、昨日よりも更に開花が進んでいた。夕方になると俄かに寒さが募ってきて、ひょっとすると明日は関東平野にも雪が降り積もるかもしれないという。春はまだまだ遠い。
今日は
フレデリック・ディーリアスの誕生日だそうだ。ツイッターに流れてきた英国ディーリアス協会からの告知で知った。ただし生誕百五十三年という半端な年なので、本国でもなんの行事もないようだ。そういえば三年前の百五十回目の誕生日には小生も倫敦にいて、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでの祝賀演奏会に列席したものだ(そのあとケン・ラッセル監督の《夏の歌》の記念上映があった)。
さて、そうと知ったからには、この日が終わらぬうちに何かしら一枚ディスクをかけねば申し訳ない。ディーリアスのCDは数知れず架蔵しているが、折角の機会なので滅多に手に取らないアルバムを久しぶりに。
《イギリス音楽の詩情を求めて: ウォーロック/ディーリアスへのセレナード》
ホルスト:
サマセット狂詩曲*
ブルック・グリーン組曲*
ヴォーン・ウィリアムズ:
コンチェルト・グロッソ**
ディーリアス:
エアとダンス**
ヴォーン・ウィリアムズ:
アリストファネス組曲「雀蜂」*
ウォーロック:
フレデリック・ディーリアスの六十歳の誕生日のためのセレナード**
ノーマン・デル・マー指揮
ボーンマス交響楽団**
ボーンマス・シンフォニエッタ*1967年6月20日、クライストチャーチ・プライオリー、ドーセット州**
1980年8月29~30日、サウサンプトン、ギルドホール*
東芝EMI TOCE-6415 (1990)
→アルバム・カヴァー英国の指揮者
ノーマン・デル・マー Norman Del Mar (1919~1994)は至って堅実な、強烈な個性をもたぬ地味な存在だったから、今や本国でも殆ど話題になることはないようだ。本領はどうやらマーラーやR・シュトラウスにあり、研究書も著しているというが、小生は寡聞にして目にしたことがない。録音は英国音楽を中心に少なからず残されているものの、これという決定的名盤が存在せず、歿後は生前にも増して影が薄くなってしまったようだ。
ディーリアス指揮者としては、「春を告げる郭公」や「川の夏の夜」などの小品を集めた一枚(Chandos)、「パリ」やピアノ協奏曲などを収めたもの(Unicorn)、古くはヴァイオリンとチェロの二重協奏曲(Pye)があり、またBBC音源による「生命のミサ」、オペラ《魔法の泉》《アーメリン》《赤毛のマルゴ》全曲盤(三作とも世界初録音)まで残しているのだが、どれも熱心なディーリアンの間ですら殆ど話題にならず、その遺産は忘却の淵に沈みかけている。小生もデル・マーのディーリアス演奏から、これといった明確な印象を受けた記憶がない。
さて、今ここで紹介するのは元は二枚の英国音楽集LPに含まれていた楽曲を抜粋再編したものだ。小生に馴染深いのはそのうち「**」印を附した三曲であり、これにエルガーの弦楽セレナードを加えた四曲で "English Music for Strings" なるアルバム(
→英盤LP)を構成していた。小生がこのLPを手にした1973年当時、ディーリアスの「エアとダンス」はこれでしか聴けなかったし、RVWの合奏協奏曲は世界初録音だった。ウォーロックの「セレナード」も珍しい曲だが、小生はボイド・ニール指揮によるモノーラル録音(Decca)で既に聴き知っていたと思う。とにかく懐かしさが募る。「*」印を付けた三曲には格別の思い出はない。
さて久方ぶりに聴き返してみて、デル・マーの指揮の巧みさに改めて感じ入った。ホルストやRVWの多楽章形式の作品での各曲の描き分けが秀逸だし、ディーリアスやウォーロックでの抒情の表出も余韻嫋々と嫌みがない。今となっては貴重な録音が後世に遺されたことに感謝するほかない。こうした秘曲群を三浦淳史さんによる名調子の解説文で読みつつ聴く愉しみも、もはや失われてしまった前世紀の古き良き音楽体験の重要な一齣だった。少しだけ引かせていただく。
■ディーリアス/エアーとダンス
1914年独軍のフランス侵入のため、ディーリアス夫妻はロンドンに避難し、指揮者ヘンリー・ウッドの邸宅に滞在した。1915年、レディー・キュナード邸で催される私的演奏会のために書かれたのが弦楽合奏用の《エアーとダンス》だった。公開初演は前述のように [1929年秋ロンドンで催されたディーリアス・フェスティバルの演目として10月16日に] ビーチャムの指揮で行われた。筆のすさびともいうべき小品ながらディーリアスらしいタッチの美しい音楽である。
■ウォーロック/ディーリアスへのセレナード
「フレデリック・ディーリアスの60歳の誕生日」に捧げられている。最初は3楽章形式で書くつもりだったが、ディーリアスが60歳の誕生日を迎える1922年1月29日が期限だったため、1楽章のみに終ってしまった。軽快な牧歌調音楽で、冒頭ニ長調─ロ短調の範囲からはみ出すことがない。意図的にディーリアス風のクロマティシズム(半音階主義)が多用されており、弦楽は分割され重音奏法が盛んに用いられている。和声的に静かな箇所には、ディーリアスを偲ばせるメランコリーが地平線に湧く雲のように漂い、余韻を残している。