諸般の事情から今年いっぱいで閉店と決まったカレー屋「
香菜軒」が大晦日ぎりぎりまで営業するというので、あらかじめ予約を入れて午後四時半に訪ねた。地元の最寄駅から西武池袋線の富士見台駅まで、片道二時間弱の往還も理由を失い、今日を限りに途絶えてしまう。そう思うと寂しさを禁じ得ない。
何事にも始まりと終わりはつきものだが、この店が今日を限りに消滅してしまうのは悲しいし、なんとも承服できない気持ちである。
平常営業は先週末で終わっており、本日の開店は変則的に夕刻から。贔屓の常連たちとの最後の晩餐といった趣だろうか。たまたま小生は口開けの客だったので、店主の三浦さん夫妻に小さな花束を贈呈して二十年半の労苦をねぎらった。とはいえ今日も忙しく働かせてしまうのだが。
店内には夫妻の一粒種のご子息も京都から駆けつけ、かいがいしく給仕を手伝っていたのが微笑ましい。ついこの間まで小学生と思っていたら、今や立派な大学生。もうじき二十一歳だという。風貌がご両親とよく似てきた。
前菜に「
豚のレバーペースト」と「
大根のポタージュ」。葡萄酒はハウスワインの赤。そして主菜は「
チキンのキーマとひよこ豆のカレー」「
豚と二種類のチーズのカレー」。いつも頼む馴染のメニューだが、もう二度と食べられないと思うと味わいは一入だ。来られなかった家人への土産として「
天然海老とキノコのカレー」を持ち帰り用の容器に詰めてもらう。
二時間ほど過ごしたら、名残を惜しむ客人が三々五々やってきて、ほどなく満席となった。ここを潮時と席を立ち、狭い店内を一度ぐるりと見渡す。もうこれで見納めだ。さらば、富士見台の香菜軒。永い間ありがとう!