あれからもう一年が経ってしまった。そろそろ封印を解いてアルバムを聴いても構わないのではないか。というわけで別室の書庫から持ち帰ったのはこの一枚。
"NIAGARA MOON: Eiichi Ohtaki"
01. ナイアガラ・ムーン
02. 三文ソング
03. 論寒牛男
04. ロックン・ロール・マーチ
05. ハンド・クラッピング・ルンバ
06. 恋はメレンゲ
07. 福生ストラット(パートII)
08. シャックリママさん
09. 楽しい夜更し
10. いつも夢中
11. Cider '73, '74, '75
12. ナイアガラ・ムーンがまた輝けば
ヴォーカル/大瀧詠一
ドラムス/林立夫(03, 04, 06-08, 11)、上原裕(01, 02, 05, 09, 12)
ベース/細野晴臣(02-09, 11)、寺尾次郎(01, 12)
ギター/鈴木茂(02-04, 06-08)、伊藤銀次(05, 09, 11)、村松邦男(01, 12)
ピアノ/佐藤博(02-09)、松任谷正隆(01-04, 06, 11, 12)
ペダル・スティール/駒沢裕城(01, 12)
ホーン/稲垣次郎、荒川達彦、村岡健、砂原俊三、岡崎資夫、清水万紀夫
コーラス/キングトーンズ(06, 10)、瑞穂リトル・リーグ(04)、シンガーズ・スリー&シュガーベイブ&吉田美奈子(11)
滝音/長野・軽井沢、白糸の滝(01, 12)1975年1月26~31日、2月4~7日、東京・瑞穂、福生45スタジオ ほか
Niagara SRCL 5004 (2005)
→アルバム・カヴァーLP発売当日に手に入れ貪るように聴いた・・・と記憶していたのだが、どうやらそうでなく、一週間後に渋谷ヤマハ店頭で記念トークを聴いた折(1975年6月8日)買い求めたものらしい。昨年たまたま埼玉の実家で発掘された大瀧の直筆サイン色紙(!)も、そのとき頂戴したに違いない。
それはともかく、このアルバムには一聴するなり吃驚したものだ。三年前のファースト・アルバムの恥じらうような初々しい抒情味はすっかり影を潜め、冒頭と末尾の「ナイアガラ・ムーン」を唯一の例外として、全曲ことごとくが湿っぽい感傷を排したノヴェルティ・ソングの連続だったからだ。
あれとこれとでは全くもって別人の趣だ。だからといって落胆したわけでは決してなく、息を吞むようなスピーディな展開にひたすら心躍らせ、予想だにしない新境地に目を瞠る思いだった。
阿佐ヶ谷の下宿でLP盤を繰り返し擦り切れるほど聴いたから、四十年近く経った今も全曲ソラで唄えるほどだ。半年後のライヴで御大を前に成果(?)を披露できたのも、その精進の賜物ということになろうか(
→荻窪ロフトで「楽しい夜更し」)。
LP盤は流石にもう傷だらけなので、今かけているのは "30th Anniversary" と銘打たれたCD再発盤である。
このCDを手にして以来だから、聴くのは九年ぶりということか。LP時代以来さんざん聴いて細部まで脳内再生できるのだから新たな発見はないものの、演奏に充満する活気と瞬撥力には改めて感動する。こんなにライヴな魅力に満ちた録音セッションは滅多にあるものではない。
気心の知れた仲間たちとの和気藹々、時に火花を散らすような演奏は、自宅録音ならではの強みだろう。もっとも、こうした親密さと炸裂感を併せもつセッションは、大瀧にとって生涯ただ一度きりの体験だったとおぼしい。
それからの数年間、同じ福生45スタジオから濫造されたナイアガラ・レーベルのアルバムは、正直なところ表現意欲が減衰し枯渇して、多くは聴くに堪えなかった。その凋落ぶりに「耳を押えて」慨嘆したのはひとり小生だけではあるまい。