選挙速報はもう見たくないのでNHK・BSに切り替えると英京ロイヤル・アルバート・ホールの巨大な空間がTV画面一杯に映る。おゝ、これは倫敦の夏の連続演奏会「プロムナード・コンサート」、略称「プロムズ(Proms)」の掉尾を飾る「ラスト・ナイト」ぢゃあないか。BBC交響楽団の首席指揮者に就いたフィンランドの俊英
サカリ・オラモが最終夜を振るのは今年の夏が初めての筈だ。
この晩の模様はBBCラジオ中継でざっと耳にはしてはいたものの、映像として接すると臨場感がまるで違う。盛り沢山な選曲の妙が愉しめるし、声楽付の楽曲に歌詞邦訳がテロップで出るのも難有い。
Proms 2014「ラスト・ナイト」
2014年9月13日(土)19:30~
ロイヤル・アルバート・ホール
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ギャビン・ヒギンズ: ヴェロシティ *世界初演
マルコム・アーノルド: 序曲「ピータールー」(合唱付) *この版の世界初演
ウィリアム・ウォルトン:「ファサード」第二組曲より 流行歌
エルネスト・ショーソン: 詩曲*
ジョン・タヴナー: アテネのための歌**
リヒャルト・シュトラウス: カンタータ「タイユフェール」***
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アラム・ハチャトゥリヤン: 「ガヤネー」より 剣の舞
モーリス・ラヴェル: ツィガーヌ*
メキシコ民謡(アレクセイ・イグデスマン編): ラ・クカラーチャ****(アンコール)
黒人霊歌(ロデリック・ウィリアムズ編): エリコの戦い*****
ジェローム・カーン(ロデリック・ウィリアムズ編):
「ショウボート」より オール・マン・リヴァー*****
リチャード&ロバート・シャーマン(アン・ダドリー編):
「メリー・ポピンズ」メドレー******
▮砂糖ひと匙で~凧揚げよう~チム・チム・チェリー~二ペンスを鳩に~スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス▮ *この版の世界初演
ジョン・アンセル: プリマス・ホウ
トマス・アーン(マルコム・サージェント編): 統治せよブリタニア*****
エドワード・エルガー: 威風堂々 第一番(希望と栄光の国)
ヒューバート・パリー(エドワード・エルガー編): エルサレム
作者未詳(ベンジャミン・ブリテン編): 英国国歌 神よ女王を護り給え
スコットランド民謡: オールド・ラング・ザイン
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ヴァイオリン/ジャニーヌ・ヤンセン*、+サカリ・オラモ****
ソプラノ/エリザベス・ウォッツ***
テノール/ジョン・ダザック***
バリトン/ロデリック・ウィリアムズ*** *****
ヴォーカル/ルーシー・ヘンシャル******
BBCシンガーズ**
BBC交響合唱団
BBC交響楽団
サカリ・オラモ指揮
まあ例年どおり多彩といおうか雑多といおうか、種々様々な楽曲を寄せ集めた一夜だが、ひと夏の祭典の締めくくりなのだから、これでいいのだろう。BBC交響楽団の新しいシェフはやる気満々、この宵のためにユニオンジャック柄のヴェストを仕立てて臨んでいる(
→この姿)。
一番の聴きものは今を時めくオランダの閨秀提琴奏者
ジャニーヌ・ヤンソンだろうか。前半にも後半にも登場し、鍾愛の曲だというショーソンの詩曲(
→舞台写真)とラヴェルのツィガーヌ(
→舞台写真)を弾いて対照の妙を際立たせたばかりか、アンコールとして指揮者オラモとヴァイオリン二重奏で「ラ・クカラーチャ」を披露するサーヴィスぶり。彼女は今夏のプロムズで別の日に、やはりオラモと組んでプロコフィエフ(二挺のヴァイオリンのためのソナタ)を共演しているので呼吸もぴったりで和気藹々、遊び心に満ちた楽しい演奏だった(
→舞台写真)。
ほかに、今年が生誕百五十周年にあたるリヒャルト・シュトラウスの珍しいカンタータ「タイユフェール(吟遊詩人) Taillefer」が聴けたのも収穫。LP初期から録音はあるものの、大編成オーケストラに独唱者、合唱が加わる大作(時間は二十分ほど)ということもあり、実演では滅多に遭遇しない。まあ、何度も聴きたい音楽ではなかったのだが。
更に封切から五十年目というミュージカル映画《メリー・ポピンズ》からのメドレーも、時宜を得た楽しい企てだ。音楽としては些か魅力薄だが、誰もが口ずさめるナンバーばかりだし、独唱の
ルーシー・ヘンシャル Ruthie Henshall は人も知るウェスト・エンドの大立者だ(
→舞台写真)。
終盤は毎度お決まりの「ルール・ブリタニア」「ランド・オヴ・ホープ・アンド・グローリー」「ジェルーサレム」「ゴッド・セイヴ・ザ・クィーン」と大した盛り上がりだが、こうして邦訳字幕付で拝聴すると、余りにも大時代的で帝国主義丸出しの歌詞に些か鼻白む。まあ、他所の国のことだから目くじら立てずにおこう。
深夜の放映だったから聴き逃した方も多かろう。少しだけ、お裾分けに聴きどころ(というか見どころ)を以下にハイライトしておく。
→ショーソン「詩曲」→ラヴェル「ツィガーヌ」→ラ・クカラーチャ→「メリー・ポピンズ」メドレー→英国国歌最後の「ゴッド・セイヴ・ザ・クィーン」はベンジャミン・ブリテンの編曲(1961)が素晴らしく感動的。女王陛下も「わが国歌がこんなにいい曲だと初めて思った」と述懐されたそうな。