師走になつた途端、朝方から寒々しい鉛色の曇り空だ。今しがた非情な雨まで降り出してしまひ、買ひ物から急ぎ足で歸宅した處である。折から近所の八百屋では蜜柑の詰め放題をやつてをり、慾張者の小生は袋がはち切れさうな程ぎつしり詰め込んでは店員を呆れさせた。
かういふ暗鬱な日だからこそ輕妙洒脱な佛蘭西近代音樂で沈み勝ちな心を沸き立たせ度い。それも飛び切り腦天氣なフランシス・プーランクが相應からう。
"Poulenc: Concerto for 2 Pianos, etc./ Hickox"
プーランク:
二䑓の洋琴の爲の協奏曲*
洋琴と十八樂器の爲の振附協奏曲「オーバード」**
シンフォニエッタ
ピアノ/ジャン=ベルナール・ポミエ* **、アンヌ・ケフェレック*
リチャード・ヒコックス指揮
シティ・オヴ・ロンドン・シンフォニア1990年12月12、13日、倫敦、ブラックヒース樂堂
Virgin VC 5 45028 2 (1996)
→アルバム・カヴァー働き盛りの六十歳での急逝が惜しまれるリチャード・ヒコックスだが、彼が英國音樂萬般のみならずプーランクにも類ひ稀なる適性を發揮した事實は餘り知られてゐないかもしれない。小生もつひ最近やつと氣づいた。
聲樂入りの宗敎音樂を含め數枚ある彼のプーランク録音は何れも秀逸な出來榮へだが、とりわけ協奏作品を中心にした本盤は抜群の仕上がり。巧まずして陽氣な輕佻浮薄さを釀し、さり氣なく感傷的な抒情をも添へる處など、かのジョルジュ・プレートルに勝るとも劣らぬ自在な巧妙さである。
季節外れと侮るなかれ。今日のやうなうそ寒い日にこそ、焚火に當たるやうな按排で聽いて溫もるべき、隠れた名アルバム。