とうとう十一月も終わってしまう。カレンダーを捲るように季節が改まるわけではないが、それでも師走ともなれば冬の足音はもうすぐそこ。
数日前アンドルー・デイヴィス卿&メルボルン勢によるグレインジャー・アルバム(
→拙レヴュー)に心躍らせながら、ふと脳裏をよぎったのは、ずっと昔この人の指揮する演奏会を聴いたことがあるという遠く微かな記憶である。
あれは確か、畏友の梅田英喜君に半ば拉致されるように音楽行脚に連れ出され、市俄古・倫敦・巴里を訪ね歩いた折のことだ。棚の奥に仕舞い込んだ昔の演奏会パンフレットをいろいろ引っ張り出してみたら、あったあった、ありました。
1993年12月10日(金)
19:30~
ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
◆
バリトン/トマス・アレン*
アンドルー・デイヴィス指揮
BBC交響楽団
BBC交響合唱団* **
◆
エルガー: 序奏とアレグロ
ヴォーン・ウィリアムズ: クリスマス・キャロルによる幻想曲*
─休憩─
ホルスト: 惑星**
もう二十年以上も前の演奏会ゆえ、思い出は霧の彼方に遠ざかっている。そもそも二曲目にトマス・アレンが登場してVWの珍しい管弦楽附き声楽曲を歌ったなんて、全く記憶から消え去ってしまった。一体全体どんな曲だったのだろう?
でも冒頭のエルガーはよく憶えている。生まれて初めて生演奏に触れた鍾愛の「序章とアレグロ」だったのだもの、それこそ全身を耳にする構えで真剣に聴いたに違いない。愛嬌ある髯面の指揮者を取り囲むように、弦楽四重奏(楽団の首席奏者たち)が坐り、その背後にかなり大人数の弦楽合奏がずらり居並んだ光景が朧げながら蘇る。あれは感動的な眺めだったなあ。
休憩後の「惑星」の記憶も微かにある。通俗名曲として矢鱈と耳にした割に実演はこれが初めてだったから、あちこちで「ほう、こういう響きがするのか」と感心しながら愉しんだ。最後の「海王星」で女声合唱のヴォカリーズがこの世のものと思えぬほど神秘的に響き(舞台裏で唄ったと思う)、長く引き延ばされた和音が消え入るように終わると、ちょっと夢うつつの茫然自失になった。
はてさて、まだ「サー」の称号を冠せられざる四十代後半のアンドルー・デイヴィスが紡いだ音楽はどれほどの高みに達していたのだろうか。当日はBBCの手で実況録音され、放送もされた筈だが、今やそれを聴き返す手だてはない。
だから往時を偲ぶよすがは危なげな我が回想だけなのだが、幸いにもほぼ同時期に彼が手兵を率いてスタジオ録音したエルガー・アルバムが残されている。手元にあるこのディスクから二十年前の演奏をあれこれ想像するのも一興だろう。
"Elgar: Cockaigne/ Introduction/ Enigma"
エルガー:
コケイン序曲
序奏とアレグロ
弦楽セレナード
謎の変奏曲
アンドルー・デイヴィス指揮
BBC交響楽団1991年4月、ロンドン、セント・オーガスティン教会
Teldec 73279-2 (1991)
→アルバム・カヴァー