夕食材の買い出しにスーパーへ出向いたら魚介コーナーで珍しい切身魚をみつけた。「かすべ」という白身の魚だが、鰭の部分がいかにも大きくて、なんだか食べにくそうに見える。だが昨秋だったか、これを試みに食してみて驚いた。身の部分がほろほろと淡泊なばかりか、いかつい鰭の軟骨も煮ると柔らかく、コリコリとした歯応えで美味しいのだ。ただし北海の季節魚らしく滅多に店頭に並ぶことがなく、ざっと一年ぶりの再会だろう。かなり大ぶりな切身が二切で五百円と安価なので、迷うことなく買物籠に拾い上げた。今夜はこれを煮て食べることにしよう。
「かすべ」とは鱏(えい)の一種だそうで、ちょっと調べたが魚偏の漢字表記はどうやら存在しないらしい。北海道ではごく普通に食される魚だという。秋田で鱏鰭の煮付を「かすべ」と称するのも同じ流れからだろう。
調理は家人が担当。もともと身が柔らかな魚なので短時間ですぐ味が染みる。鍋に煮たてた湯に切身と生姜と大根を投入、同量の醤油と日本酒、その半量の味醂と砂糖少々を加えてぐつぐつ煮る。ただそれだけだ。隠し味として最後に酢を少しだけ加えるのが秘訣だそうで、こうすると甘辛味がまろやかになる由。
食卓には昨日の解禁日に買い込んだボージョレ・ヌーヴォー、家人の田舎から頂戴した大根と柿を薄塩で和えたもの、これまた田舎産のカリフラワーの茹でたの、近所の八百屋で買ったアスパラ菜(オータムポエム)の御浸し、京都から恵贈された身欠鰊の佃煮なども並んだ。とはいえ今夜の主役はなんといっても「かすべ」。ふうわり、ほっこり、こりこりしたその食感はちょっと比類なく、酒の肴としても御飯のおかずとしても最適。骨まで残さず食べるので後片づけも簡単だ。
いかにも秋らしく、海のもの、山のものをたらふく平らげ、無上の口福を味わったあとは暫し横になって休憩。行儀は悪いがこれがまた最高の気分。