うそ寒い雨の日。かかりつけの歯医者へ出掛けた家人と駅前の珈琲屋で待ち合わせ。ちょうど正午を少し廻った頃合なのでどこかで昼食でもと落ち合ったのに、近くの複合型映画館の上映時間表をみると程なく始まる映画がある。
クリント・イーストウッド監督の最新作《
ジャージー・ボーイズ Jersey Boys》だ。先々週の封切時からずっと気にしていたのだが、上京やら原稿の締め切りやら颱風やらで、ずるずる一日延ばしにしていた。雨降りは映画の日。あと十五分で始まるという間際になって衆議一決、食事は後回しにして飲物片手に映画館へ駆け込んだ。
いろいろ前評判は耳にしていたのだが、いやはや、これが聞きしに勝る大傑作なのだ。想像を超えた面白さに目を瞠るばかり。世代的にフォー・シーズンズの音楽と殆ど無縁だった小生のような者も、この実録ミュージカルから片時も耳目が離せない。どこにも中だるみのない、堂々たる語り口なのに感服。物語と音楽の絡ませ方も完璧だ。存分に愉しませてもらった挙句、ラストシーンでは思わず涙してしまう。御年八十四で人生初のミュージカル映画に挑戦し、何の苦もなく(のようにみえる)余裕綽々と撮り上げてしまうイーストウッドの底知れぬ才能には脱帽あるのみ。マルパソ(悪路=彼のプロダクション名)とは栄光へと至る道だったのだ。