今日は久方ぶりの観劇だ、という次第で家人にたたき起こされ、朝の珈琲もそこそこに外出の準備。道すがら車中で読むための本を選ぶ間もなく、たまたま目についた一冊を書棚から引ったくると家を出た。リヒャルト・シュトラウスについての本が相応しいのだが見当たらず、仕方なく川端康雄さんの『
オーウェルのマザー・グース』(平凡社選書、1998)を帯同したのだが、正直なところ何故これを選んだのか判らない。特にこのところオーウェル熱が再燃したわけでもなく、ふとした偶然の気紛れからなのである。がら空きの電車でおもむろに鞄から取り出し、既読の本だから拾い読みするつもりで、最終章「『一杯のおいしい紅茶』をめぐって──オーウェルと紅茶」を開き、何気なしに読みだして、いきなり目が釘付けになった。
[…] あれは一九八四年だったと思うが、新宿の映画館 (シネマスクエアとうきゅう) で『ドレッサー』というイギリス映画を見ていたところ、まさに "a nice cup of tea" というフレーズが繰り返される歌が突然出てきたのでびっくりした。それは、劇作家ロナルド・ハーウッドの舞台劇(一九八〇年にマンチェスターで初演)をピーター・イェイツ監督が一九八三年に映画化したもので、その背景はイギリスがドイツ軍の空襲に苦しんでいた一九四二年初頭の地方都市、劇団の座長で老いたシェイクスピア役者の世話をする付き人(ドレッサー)が座長を元気づけようとして紅茶を入れてやる場面で出てきた。
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「突然出てきたのでびっくりした」のは当方も同じだった。なにしろ小生と家人はこれからその劇作家
ロナルド・ハーウッドの近作芝居を観に行くところなのである!