今年のノーベル物理学賞を三人揃って日本人研究者が授かるという。何はともあれ慶賀である。とりわけ嬉しく思うのは、今回の授賞理由がいつもと違い、私たち門外漢にも容易に理解できることだ。
The Nobel Prize in Physics 2014 was awarded jointly to Isamu
Akasaki, Hiroshi Amano and Shuji Nakamura "for the invention
of efficient blue light-emitting diodes which has enabled bright
and energy-saving white light sources."
ふむふむ、そういうことか。ウィキペディアの手際よい要約によれば、こうなる。「
高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明」。
なるほど、これならばよく判る。誰にも身近な発明だし、私たちは日々その恩恵に浴してもいる。青色発光ダイオードの発明と実用化のお蔭で、LEDの汎用性は飛躍的に向上し、今や私たちの生活の隅々にまで入り込んでいる。
早い話、拙宅のTV画面はLED液晶ディスプレイだし、居間を照らす照明も省エネ型のLED白色電球になって久しい。そもそも今この文章を綴っているPCもディスプレイはLED液晶なのだ。授賞理由がわざわざ「
高輝度で省電力の白色光源を可能にした」と強調していることからも、その意義の大きさが了解できよう。
昔からノーベル物理学賞は対象領域があまりにも難解なため、一般人にはその内容も有難味もさっぱり会得できないものと相場が決まっている。試みに歴代の日本人受賞者とその授賞理由を列挙してみよう。
1949年 湯川秀樹
*核力の理論的研究に基づく中間子の存在の予想
1965年 朝永振一郎
*量子力学の分野におけるくりこみ理論の提唱
1973年 江崎玲於奈
*半導体内におけるトンネル効果の実験的発見
2002年 小柴昌俊
*天体物理学への先駆的貢献、特に宇宙ニュートリノの検出
2008年 南部陽一郎・小林誠・益川敏英
*素粒子物理学における自発的対称性の破れの機構と起源の発見
上の授賞理由における
下線部分の語句を説明せよ、と問われたら、誰しも頭を抱えてしまうだろう。そもそも小柴博士が拵えた壮大な
カミオカンデにしても、それがいかなる装置でどんな用途を果たすかとなると、ぐっと言葉に詰まって万事休す、もうお手上げである。事ほど左様に、最先端の物理学は私たちの生活からは縁遠く、常人の理解を遙かに超えてしまっている。
そこへいくと、今回の赤﨑・天野・中村お三方の仕事にはぐっと親近感がもてる。何より成果が身近なところにあり、誰もが日常的に目にするものだからだ。交叉点の青信号がそれだというのだから実に判りやすい。
先進的な研究領域に身を置きながら、誰もが享受できる豊かな稔りをもたらし、青く眩い光で私たちの生活を照らし出した三人の研究者に栄光あれ!