連休明け(といっても平素と同じだが)思いがけず厄介な作業に丸二日従事して緊張を強いられた。いや、「強いられた」はちょっと事実と違うか、自ら好き好んで志願した、という感じかな。長文の草稿を精読し校閲するというデスクワークに、精も根も尽き果てたところだ。疲労困憊して昏々と眠って起きたら清々しい晴天、ヴェランダに出たら初夏の陽気である。
何かスッキリ爽やかで気疲れしない、それでいて心に染み入る音楽が欲しい。なので探し出したのはこんな珍しい一枚。
"Elgar/ Ravel/ Fauré"
フォーレ:
マスクとベルガマスク
エルガー:
夜の唄
朝の唄
フォーレ:
パヴァーヌ
ディーリアス:
春に郭公を初音を聴いて
ラヴェル:
亡き王女へのパヴァーヌ
ウォーロック:
カプリオール組曲
バターワース:
青柳の堤
サティ(ドビュッシー編):
ジムノペディ 第一、第三番
チャールズ・グローヴズ卿指揮
イングリッシュ・シンフォニア1988年9月22、23日、ロンドン、アビー・ロード、EMIストゥディオズ
IMP Classics PCD 2017 (1989)
→アルバム・カヴァーちょっと変わった取り合わせの選曲である。英仏海峡を挟んで対峙する二国の音楽を交互に聴くという趣向はありそうで、実は他に例がないのではないか。
エルガーの「シャンソン・ド・マタン」からフォーレの「パヴァーヌ」へ、ディーリアスの「郭公」を経由してラヴェルの「パヴァーヌ」に至るという流れは全くもって独特のものだ。しかも意外に違和感や齟齬は生じない。親和性があるのはいずれも同時代の産物だからだろうか。そもそも音楽にとって国籍とは?
淡々と穏やかに、しかし仄かな共感を愛情を秘めて清楚に謳い上げる。余韻嫋々。グローヴズ卿の創り出す音楽はどうしてこうも心に染みるのだろう。
疾うに消滅した群小レーベルから四半世紀前ひっそり出たアルバムなので、もう入手は難しいかも知れない。ちょっと調べてみたら、90年代だろうか、同じアルバムが別レーベル(Innovative Music)から再発されているらしいことを知った。それも "Entente Cordiale" という耳馴染のないタイトルを添えて(
→これ)。
どうみてもこれは仏蘭西起源の語だ。「アンタント・コルディアル」とはなんぞや。辞書を引いてみたら「(国家間の)
友好協定」、大文字始まりだと「(1904年締結の)
英仏協商」のこと、とある。なるほどなあ、英仏両国の音楽が仲良く並立するアルバムを国家間の協定に擬えたというわけだ。
どっちにしても今や中古盤でしか探せない安価な稀覯盤と成り果てたCDだが、忘れてしまうには余りに惜しい秀演なので、敢えて聲を大に推奨しておく。