事の序に戰前に於ける我が國でのノエル・カワード飜譯書目を列擧してみる。と云つても學究的に悉皆調査した成果ではなく、何時の間にか手許に溜つた古書をたゞ時系列に竝べたに過ぎない代物なのを豫めお斷はりしておく。
ノオエル・カワアド
《家庭漫話》(三幕)
山本修二 譯
『近代劇全集』 第四十三巻 英國篇
第一書房
1928■"Home Chat" (1927) の全譯。他にミルン、ドリンクヲオタア、マンロオの戲曲各一篇(すべて山本譯)を收録。
Bitter Sweet and The Vortex
by NOEL COWARD
with inroduction and notes
by YOSHIO NAKANO
硏究社現代英文學叢書
硏究社
1935■ 中野好夫が手掛けた《ほろ苦さ》と《渦巻》の英文テクスト註釋書。行き屆いた後註に加へ、三十頁にわたる懇切な序文解説が附く。
ノエル・カワアド
若氣のあやまち
飯島 正 譯
西東書林
1935■ 《若氣のあやまち》《ドウヴアの税關》《お氣の毒さま》《七時前の雨》《旅する灯》《子守あそび》《あやとり》《知らざるものは幸なり》《安寧秩序》《いや増す苦痛》──以上計十篇のスケッチ(一幕物の小戲曲)を收録。出典は『歌詞及びスケッチ集 Collected Sketches & Lyrics』(1930)。
ノエル・カワード
《海を越えた親善》
清水達男 譯
『演劇雜誌 劇作』 第五十八號
白水社
1936(12月号)■ 《今宵八時半》として上演された連作一幕劇から "Hands across the Sea" の全譯。1936年1月に倫敦フィーニクス座で初演されたばかりの最新作。
ノエル・カワード
《私生活》
森本 薫 譯
『演劇雜誌 劇作』 第六十四、六十五、六十六號
白水社
1937(6、7、8月号)■ 《私生活 Private Lives》(1930)の本邦初譯にして、戰前の我が國に於けるカワード劇飜譯の恐らく白眉であらう。森本の歿後『
現代世界戯曲選集』第十一巻(白水社、1954)にも再録されてゐる。
ざつと概觀しても戰前のカワード紹介には、シング『西國の伊達男』(岩波文庫)の譯者でもある愛蘭文學者
山本修二を嚆矢として、
中野好夫、
飯島正、
森本薫といつた錚々たる面々が關はつてゐた。當時それらが如何に受け止められたのか、また我が國の芝居にどのやうな影響や痕跡を殘したかに就ては、追ひ追ひ勉強を深めていきたいと願つてゐる。