昨日の夕飯は
舌平目のムニエル。残り物の
長葱と
馬鈴薯を炒めて添えた。主菜がやや脂っこいので汁はサッパリ
独活(うど)
の卵綴じに。何かもう一品と請われて、冷蔵庫にまだ蕗の薹(ふきのとう)があるのを思い出した。パックを取り出すと、大粒のが五つも残っている。そうだ、これで
蕗味噌を作ろうと即断した。
ネット上の製法には諸説あるのだが、要するに蕗の薹を微塵に刻んで油で炒め、味醂で溶いた味噌で和えるだけの簡単料理。ただし、刻んだ蕗の薹はすぐ黒く変色して灰汁が出るので、切ったらすぐ炒めるのがコツなのだという。
そういう訳で、同量の赤味噌と味醂とを予め混ぜておき、鍋で胡麻油を弱火で加熱。その間に水洗いした蕗の薹を細かく刻み、水気を切ったら即座に鍋に投入。少し和えたら味醂+味噌を流し入れ、焦がさぬようかき混ぜつつ、とろ火で慎重に加熱。やや煮詰まったら完成だ。ほろ苦い蕗の芳香が仄かに漂う。
初めて拵えたので、恐る恐る食してみると、これは旨い。蕗のえぐみが胡麻油の香ばしさで程よく中和され、味噌と味醂の甘さとブレンドされて、得も云われぬ調和を醸し出す。ビギナーズ・ラックの紛れ当たりかもしれないが、これなら立派に一品料理として通るし、酒のツマミにも最適だ。幸い家人の評判もまずまずだ。
一夜明けると今日は夜半の雨もすっかり上がって心地よい晴天。ただし予報では午後三時からは雨模様というので油断は禁物である。なので朝のうちから早々と散歩に出て、川沿いの公園へと赴く。近隣ではここが随一の花の名所、染井吉野も大島桜も八重桜も、どれも色とりどりに満開だ。
そこそこ晴れた日曜とあって、すでに家族連れがあちこち敷物を拡げ、思い思いに花見に興じている。小型のテントを設置する者、折詰のパーティ料理に舌鼓を打つ面々、持ち込んだ鉄板でバーベキューを焼くグループ。かなり雲が広がってきたものの、時おり眩い陽光も射して、まずまずの花見日和といえるだろう。
当方は散策の途中なので食材は持参していない。暫く見物したらすごすご退散、途中で和菓子屋で自家製おにぎりを買い求めて帰宅。軽い昼食を済ませると空模様が急変した。全天が雲で覆われ、吹く風が俄かに冷たくなる。そうそうするうち、しとしと無情の雨が降り出した。まさに予報が的中といった按配。今年の花見もこれで終わりになるだろう。
ところがこのまま雨降りかと思いきや、夕刻に再び陽光が射して眩い日没と夕焼け。ただし肌寒い空気はそのままだ。春の陽気は気紛れである。
先日たまたま耳にしたアルバム(
→しずごころなく花見に気もそぞろ)以来、弦楽合奏のための英国音楽を聴くのが癖になり、なにやら中毒症状すら呈している。果たしてこの季節に聴くのに相応しいか否かはわからないが。
"English String Music"
エルガー:
序奏とアレグロ*
ヴォーン・ウィリアムズ:
トマス・タリスの主題による幻想曲
ウォルトン:
弦楽のためのソナタ
弦楽四重奏/アンドルー・ウォトキンソン、エドワード・ロバーツ、スティーヴン・ティーズ、シューナ・ウィルソン*
リチャード・ヒコックス指揮
シティ・オヴ・ロンドン・シンフォニア1991年1月23~25日、キルバーン、セント・オーガスティンズ教会
EMI CDM 5 66761 2 (1993)
→アルバム・カヴァー"Elgar/Britten/Vaughan Williams/Tippett"
エルガー:
弦楽セレナード
ブリテン:
フランク・ブリッジの主題による変奏曲
ヴォーン・ウィリアムズ:
トマス・タリスの主題による幻想曲
ティペット:
コレッリの主題による協奏幻想曲
チャールズ・グローヴズ卿指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団1989年9月、サリー州ミッチャム、セント・バーナバス教会
Carlton IMP Classics 30367 00682 (1990)
→アルバム・カヴァー"English String Music"
エルガー:
序奏とアレグロ
弦楽セレナード
ディーリアス(エリック・フェンビー編):
二つの水彩画
ウォーロック:
カプリオール組曲
ホルスト:
ブルック・グリーン組曲
ウォルトン:
フォールスタッフの死/柔き唇に触れ、別れなん ~映画《ヘンリー五世》
パーセル(アルバート・コーツ編):
弦楽のための組曲
バリー・ワーズワース指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団1994年8月、ロンドン、C. T. S. スタジオ
Membran RPO 222897-203 (2005)
→アルバム・カヴァー"Music for Strings"
グリーグ:
ホルベアの時代から
二つの悲しい旋律*
ディーリアス:
エアとダンス*
エルガー:
弦楽セレナード
ウォーロック:
カプリオール組曲
ホルスト:
セント・ポール組曲
ジョナサン・リーズ指揮
スコティッシュ・アンサンブル1989年8~9月、グラズゴー・シティ・ホール
1991年10月、グラズゴー、BBCスコットランド、スタジオ1*
Virgin VIRGO VJ 7 91565-2 (1992)
→アルバム・カヴァー同工異曲といおうか、同じ穴の貉といおうか、英国近代音楽から弦楽アンサンブル用の小品ばかり集めてアルバムを編む趣向はどれも同じである。この手のCDを熱心に蒐めたつもりはないが、いつの間にか藤壺さながら我がコレクションの船底にビッシリ貼りついてしまった。
こうしたアルバムは今では枚挙に暇ないが、その歴史はさほど古くない。小生の知る限りモノーラル時代には殆ど先例がなく(
ボイド・ニール指揮の十インチ盤があった程度)、1960年代に入ってもエルガーとヴォーン・ウィリアムズを組み合わせた
ジョン・バルビローリ指揮の一枚(EMI, 1962)位しか記憶にない。
それが1970年前後に、まるで申し合わせたかのように
ノーマン・デル・マー指揮(VW、エルガー、ディーリアス、ウォーロック)、
ベンジャミン・ブリテン指揮(パーセル、エルガー、ブリテン、ディーリアス、ブリッジ)、
ネヴィル・マリナー指揮(ホルスト、ディーリアス、パーセル、VW、ウォルトン、ブリテン)の三枚のLPが相次いで出て、このジャンルを確立したといえそうである。それについて小生には同時代の聴取体験があるから間違いあるまい(関連記事は
→ここ)。
たまたま目にとまった四枚だが、どれも選曲が重複しつつ微妙に異なり、それぞれに秀逸である。エルガーが必ず中核をなし、そこにディーリアスからVW、ブリテン、ティペットに至る楽曲を散りばめて英国近代音楽史を粗描するという枠組も共通する。バロック期のパーセルがひとり選ばれているのは、英国音楽の祖としての特権的・象徴的な意味合いからだろう。
聴き較べてみると、いずれも捨てがたい魅力のある演奏で甲乙つけがたい。解釈の老練という点ではグローヴズ卿やヒコックスに一日の長がある(とりわけ前者の巧緻で恰幅のいいブリテン!)のは事実だが、ワーズワースやリーズといった若手(後者については何も知らないが)だって健闘している。ワーズワース盤の最後に収められたパーセルの組曲(アルバート・コーツ編)は珍しい聴きものだし、誰もが「おゝこれは!」と驚く内容である。スコティッシュ・アンサンブル盤には何故か非英国人グリーグが混じっているものの、直後に(グリーグに私淑した)ディーリアスを配しているので違和感はよほど緩和されていよう。
そんな訳で、四枚が四枚いずれ劣らず選曲も演奏もよく、英国音楽好きのツボを心地よく刺激し、嬉しがらせる内容なので、どれもが推奨に値しよう。ただし探し出すのがちょっと難しいから、試しに聴いてみようという方は、上述のベンジャミン・ブリテン盤(Decca)をまずはお薦めしたい。いいですよ、英国弦楽合奏曲は。