本日(2014年4月15日)は英国における現役最長老(むしろ世界でも最高齢だろう)の指揮者
ネヴィル・マリナー卿 Sir Neville Marriner の九十回目の誕生日である。単に長生きというだけでなく、老いてなお旺盛に活動を続けるネヴィル卿に満腔の敬意を表しつつ、謹んで記念演奏会を催したい。といっても半世紀に及ぶ卿の膨大なディスコグラフィから、たまたま架蔵する二十点を拾い出し、卿ご当人に乞うて演奏・指揮の労をとらせるだけの話なのだが。
つい先日、八十九歳と十か月のマリナー卿の矍鑠たる指揮ぶりを間近に見聞したばかりである(
→大雪の翌日にネヴィル卿を聴く)。その折にもつくづく感じ入ったのであるが、ここで半世紀前の昔話をひとくさり。マリナーがまだオーケストラで一介のヴァイオリン奏者として禄を食んでいた1963年春、彼はロンドン交響楽団の一員として初来日を果たした。先日その来日公演のプログラム冊子を眺めていたら、メンバー一覧にちゃんと名が記されていた。主な団員を書き写しておく。
第1バイオリン
⦿エーリック・グルーエンバーグ
*ロドニー・フレンド
**バリー・ワイルド
・・・・・・
第2バイオリン
*ネビル・マリナー
**ハンス・ガイガー
・・・・・・
クラリネット
*ジャーベイス・デ・パイアー
・・・・・・
ホルン
*バリー・タックウェル
*アラン・シビル
・・・・・・
ハープ
*オシアン・エリス ⦿=コンサートマスター *=首席奏者 **=次席奏者
このロンドン響の初来日に際しては当時の首席指揮者ピエール・モントゥーが同行し、大阪公演を振った。老巨匠はそのとき八十八歳。その時点での世界最高齢の指揮者だった(さすがにその他の都市への巡演には加わらず、まだ「若造」だったドラーティとショルティが指揮した)。
そのとき指揮台の傍らで第二ヴァイオリンを率いていた四十歳のマリナーは、半世紀後まさか自分が最長老として日本の楽団を指揮することになろうとは想像もしなかったろう。云うまでもなくマリナーは指揮術をモントゥー翁から直伝で授かっており(プレヴィンやジンマンと同門)、やがて指揮者として立つ野望を胸中深くに秘めていたかも知れないのだが。
01)
"Bach: The Harpsichord Concertos"
バッハ:
チェンバロ協奏曲 第一番
チェンバロ協奏曲 第二番
チェンバロ協奏曲 第三番
チェンバロ協奏曲 第四番
チェンバロ協奏曲 第五番
チェンバロ協奏曲 第六番
チェンバロ協奏曲 第七番
チェンバロ協奏曲 第八番
チェンバロ/イーゴリ・キプニス
リコーダー/ジャンヌ&マルグリット・ドルメッチ(第六番)
ネヴィル・マリナー合奏指揮
ロンドン・ストリングズ1967年10月28~31日、バーンズ、オリンピック・スタジオ(第三、五、六番)
1969年3月6~9日、ロンドン、アビー・ロード・スタジオ(第一、七番)
1970年10月15、17日、ロンドン、アビー・ロード・スタジオ(第二、四、八番)
CBS Odyssey MB2K 45616 (1971/1989, 2CDs)
→アルバム・カヴァー →マリナーとキプニスマリナー初期の珍しい組物。まだ指揮棒ではなくヴァイオリン奏者として弾きながら団員をリードするスタイル。米国のチェンバロ奏者キプニスはサーストン・ダートに師事したこともあるから、同じくダートに感化されたマリナーとは同門にあたり、その誼で共演が叶ったのだろう。マリナーによるバッハの鍵盤協奏曲伴奏は珍しく、このあとはガヴリーロフのピアノと共演した程度。ぴたり随伴するマリナーらしい明快な指揮だが、キプニスに遠慮したのか、かなり控えめな演奏である。The London Strings とは云うまでもなくアカデミー・オヴ・セント=マーティン=イン=ザ=フィールズの変名。1965年に結んだArgo社との専属契約があったためだ。
02)
"The British Collection/ Elgar: Orchestral Works"
エルガー:
序奏とアレグロ*
弦楽セレナード
ソスピリ
悲歌
組曲「スペインの淑女」(パーシー・ヤング編)
ウォーロック:
弦楽セレナード(フレデリック・ディーリアス六十歳の誕生日に)**
弦楽四重奏/ヒュー・マクグアイア、レイモンド・キーンリーサイド、ケネス・エセックス、ケネス・ヒース*
ネヴィル・マリナー合奏指揮/指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1967年11月20、21日、68年4月9日、ロンドン、キングズウェイ・ホール
1977年6月14、15日、ロンドン、セント・ジョンズ・スミス・スクエア**
London 421 384-2 (1968&79/1989)
→アルバム・カヴァーLP時代にラジオから流れてきて心奪われた懐かしい演奏。盤を手に入れてからも擦り減るまで聴いた。小生の「エルガー事始」でもある。久しぶりに耳にしたが、思い切り見得を切るようにスタイリッシュな「序奏とアレグロ」が心躍る秀演であることを再確認。エルガーの弦楽合奏曲の逸品を集めた選曲が実に素晴らしく、「好きにならずにはいられない」一枚だった。CD併録のウォーロック「セレナード」は「カプリオール組曲」とともに、ヴォーン・ウィリアムズの楽曲と表裏に組み合わせたLPからフィルアップ。十年ほど後の録音だが、これも余韻嫋々たる好演奏。
03)
"Legends: Dvořák - Tchaikovsky - Grieg"
ドヴォジャーク:
弦楽セレナード*
チャイコフスキー:
弦楽セレナード**
グリーグ:
ホルベアの時代から***
ネヴィル・マリナー合奏指揮/指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1968年10月7~10日**、70年5月11、12日*、14、15日***、ロンドン、キングズウェイ・ホール
Decca 470 262-2 (2002)
→アルバム・カヴァーこれまた思い出深い演奏が目白押し。元のLPではドヴォジャークと「ホルベア」で一枚、チャイコフスキーのセレナードは「フィレンツェの思い出」と表裏をなしていた。どちらも繰り返し散々聴いたものだ。とりわけ「ホルベア」は同曲との出逢いの演奏でもあり、刷り込みの効果は今なお絶大。どちらかというと北欧風の抒情よりもマリナー&アカデミー特有の弾むように闊達なリズム感が全体を覆う。なお、チャイコフスキーではマリナーはヴァイオリンを捨て、指揮に専念している模様。
04)
"British Composers/ Britten"
ブリテン:
レ・ジリュミナシオン*
セレナード**
ソプラノ/ヘザー・ハーパー*
テノール/ロバート・ティア**
ホルン/アラン・シヴィル**
ネヴィル・マリナー指揮
ノーザン・シンフォニア1970年6月18、19、22日、ニューカースル、オールド・バンケティング・ハウス
EMI 3 52286-2 (1971/2006)
→アルバム・カヴァーランボー詩集に附曲したブリテンの若書き「イリュミナシオン」は1970年の大阪万博で来日したレイモンド・レパード&イギリス室内管弦楽団の公演TV中継で見聞して好きになった。その折の独唱は男声(本盤の「セレナード」を歌うティア)だったのだが、このマリナー盤では珍しくソプラノが担当する。東芝からLPが出たとき一聴して吃驚したこと、そのアルバム・カヴァーが素晴らしく秀逸だったことも忘れがたい。このたび実に四十数年ぶりに再会して、ハーパーの細やかで丁寧な歌唱にもマリナーの敏捷で行き届いた解釈にも感銘を受けた。珍しくスコットランドのアンサンブルを指揮しているが、そうなった経緯はよくわからない。当CDでは別音源からジェフリー・テイト指揮、ティア独唱による「夜想曲」も併録(1987録音)。
05)
《イギリス音楽の詩情を求めて/二つの水彩画》
ホルスト:
セント・ポール組曲
ディーリアス(エリック・フェンビー編):
二つの水彩画
パーセル:
シャコニー
ヴォーン・ウィリアムズ(アーノルド・フォスター編):
前奏曲「ロージメードル」
ウォルトン:
弦楽のための二つの小品 ~映画《ヘンリー五世》
ブリテン:
単純交響曲
ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1971年7月21、22日、ロンドン、キングズウェイ・ホール
東芝EMI CE33-5242 (1973/1989)
→アルバム・カヴァー →米盤LP少し前に英Deccaから出たベンジャミン・ブリテン&イギリス室内管弦楽団による同種の英国近代弦楽合奏曲集に触発され、その向こうを張って企画されたアルバム。その証拠に収録六曲中の三曲(パーセル、ディーリアス、ブリテン)までがブリテン盤と共通する。演奏の仕上がりも曲目の選択も、両者とも甲乙つけがたいが、目も覚めるように鮮やかなアンサンブルと巧みな語り口によるマリナーの解釈に一日の長があろう。少なくとも当時の小生はそう感じたものだ。これほどの名盤が忘却の淵に沈んでしまうのは甚だ理不尽。一度ぜひ聴いてご覧なさい。
06)
"Britten - Honegger"
ブリテン:
シンフォニエッタ*
シンフォニア・ダ・レクイエム**
オネゲル:
交響曲 第三番「典礼風」***
ネヴィル・マリナー指揮
シュトゥットガルト放送交響楽団1980年7月17日***、86年6月20日*、84年12月6日**、シュトゥットガルト、ヴィラ・ベルク、SDRスタジオ*
Capriccio 10 428 (1993)
→アルバム・カヴァー1970年代半ば頃から十数年、小生はクラシカル音楽から遠ざかっていて、マリナーの消息もリアルタイムでは知らない。なのでこれ以降は90年代後半から「後追い」で聴いた音源になる。さて1979年からミネソタ管弦楽団の、83年からシュトゥットガルト放送交響楽団の音楽監督に就いた彼は、大オーケストラによる管弦楽曲にレパートリーを拡大し、バロック畑からの出自を次第に払拭していく。とりわけシュトゥットガルトの楽団とは相性が良かったようで、19、20世紀の膨大なレパートリーが放送局スタジオ録音として残された。このCDはそのなかでも出色の一枚。ブリテンとオネゲルが第二次大戦の前と後に作曲した真摯な「時代の証言」としての交響曲を組み合わせた秀逸なアルバムである(ただし収録はそれぞれ別時期)。編成の大きな楽曲でもマリナーの明晰な音楽づくりは変わらない。
07)
"The English Connection"
ヴォーン・ウィリアムズ:
揚げ雲雀*
トマス・タリスの主題による幻想曲*
エルガー:
弦楽セレナード
ティペット:
コレッリの主題による協奏幻想曲***
ヴァイオリン/アイオナ・ブラウン*
弦楽四重奏/アイオナ・ブラウン、マルコム・ラッチェム、スティーヴン・シングルズ、デニス・ヴィゲイ**
ヴァイオリン/アイオナ・ブラウン、ケネス・シリトー、チェロ/デニス・ヴィゲイ***
ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1982年7月5、8、9日、ロンドン、アビー・ロード・スタジオ1
ASV CD DCA 518 (1984)
→アルバム・カヴァーマリナー&アカデミーの古巣レーベルのArgoは1980年代に活動を停止し、その旧スタッフの数人が新たに小レーベルASV (Academy Sound & Vision) を発足させた。本盤は昔の誼み(?)でそのASVから出た一枚。EMI収録の 05) と同工異曲の英国近代弦楽合奏曲アンソロジーながら、それとは一曲も重複せず、「揚げ雲雀」のように管楽器を含む編成の曲も加えている。以前と較べるとマリナー&アカデミーの奏でる音楽は柔和さを増し、その分キビキビとした若やぎは後退した印象。そこに円熟をみるか衰退と感じるかによって評価は分かれよう。
08)
"Britten: Works for Orchestra"
ブリテン:
青少年のための管弦楽入門 ~映画《オーケストラの楽器》
四つの海の前奏曲 ~歌劇「ピーター・グライムズ」
善意の人々(クリスマス・キャロルによる変奏曲)
ネヴィル・マリナー指揮
ミネソタ管弦楽団1983年5月16、17日、ミネアポリス、オーケストラ・ホール
EMI 7 49333 2 (1984)
→アルバム・カヴァー(LP)マリナーが1979年から86年まで音楽監督を務めたミネソタ管弦楽団との録音。初のフル・オーケストラの常任ゆえ意気込んで臨んだろうが、実演はいざ知らずレコード録音だけから察するに、七年に及ぶ在任期間でアルバム七枚というのは彼にしては些か不本意な結果ではなかろうか(他にワーグナー序曲集、ドヴォジャークの三大交響曲、コープランド名曲集など)。そのなかで誰もが安心して聴けるのはやはりこのブリテンだろう。誰もが知る名作二曲を手堅く纏め上げたうえに、稀少な「善意の人々」をフィルアップするところにマリナーの心意気が窺える。
09)
"Mozart: Le Nozze di Figaro"
モーツァルト:
歌劇「フィガロの結婚」
アルマヴィーヴァ伯爵/ルッジェーロ・ライモンディ
伯爵夫人ロジーナ/ルチーア・ポップ
スザンナ/バーバラ・ヘンドリクス
フィガロ/ジョゼ・ヴァン・ダム
ケルビーノ/アグネス・バルツァ
マルチェリーナ/フェリシティ・パーマー
ドン・バジーリオ/アルド・バルディン
ドン・クルツィオ/ニール・ジェンキンズ
医師バルトロ/ロバート・ロイド ほか
合唱/アンブロジアン合唱団
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1985年8月15~24日、ロンドン、セント・ジョンズ・スミス・スクエア
Philips 416 370-2 (1986)
→アルバム・カヴァー →ヴァン・ダムとマリナー80年代にレパートリーを大幅に拡大したマリナーは19、20世紀の管弦楽作品と並行して、モーツァルト、ロッシーニの歌劇にも意欲的に取り組んだ。とりわけ手兵アカデミーを擁したモーツァルトではそれまで交響曲や宗教音楽で研鑽を積んだ成果がすべて奏功し、小ぶりだが生き生きした理想の「アンサンブル・オペラ」が実現した。特に「フィガロ」は参集した歌手の顔ぶれの豪華さで特筆されよう。ライモンディの伯爵、ポップの伯爵夫人、ヴァン・ダムのフィガロ、バルツァのケルビーノ──非の打ちどころがない陣容とはこれだ。時の試練に耐え得る秀逸な全曲盤。因みにこの録音の前後マリナーは爵位を授かり、晴れて「サー」になった。
10)
"Tchaikovsky: Suites Nos. 1 & 2"
チャイコフスキー:
組曲 第一番
組曲 第二番
ネヴィル・マリナー卿指揮
シュトゥットガルト放送交響楽団1987年10月3、4日、12月12、13日、シュトゥットガルト
Capriccio 10 227 (1988)
→アルバム・カヴァー ちょっと息抜きに肩の凝らない楽曲を。マリナーはシュトゥットガルトでチャイコフスキーの交響曲全集も仕上げているのだが、小生が愛してやまないのはむしろ滅多に聴かれない管弦楽組曲である。彼は四つある組曲のすべてを録音したが、ここでは前半の二曲を収めた一枚を聴こう。些かとりとめない性格的小品の連なりであるが、マリナーはこうした音楽に対して驚くほどの適性を示し、瞬時たりとも聴き手を飽きさせない。隅々まで考え抜かれた音楽的表現に舌を巻くばかりだ。
11)
"Elgar: In the South - Symphony No. 1"
エルガー:
序曲「南国にて(アラッシオ)」
交響曲 第一番
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1990年11月24~26日、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
Collins Classics 12692 (1991)
→アルバム・カヴァーマリナー卿の守備範囲が大オーケストラにまで拡大するにつれ、本来の手兵たるアカデミーはセッション曲目により楽員数を増減する「伸縮自在」のオーケストラに変貌した。こうして後期ロマン派の楽曲も自在に奏でる姿を如実に示すのが本アルバムだ。正確な参加メンバー数は不明だが、七十人程度は必要なのではないか。こうしてCDで聴く限り、ロンドン響やフィルハーモニアに遜色のない音がするが、弦楽がいくらか薄い気がするのは明晰に響かせるマリナーの解釈のせいもあろうか。エルガーの第一交響曲は歴代の英人指揮者が名盤を残しているが、この演奏はそれらに伍して存在を主張し、充実した響き、揺るぎない構成感、繊細な味わいを併せもつ。新興Collinsレーベルにマリナー&アカデミーはヴォーン・ウィリアムズの第五・第六交響曲も録音し、第三・第四と進む予定が頓挫した由。エルガーの第二交響曲にも挑戦したかったのではないか。やがてレーベル自体が倒産して本盤も今や稀覯盤の仲間入りとは、好演なだけに勿体ない話である。
12)
"Béla Bartók: Der wunderbare Mandarin etc."
バルトーク:
組曲「支那の不思議な官吏」*
舞踊組曲**
弦楽、打楽器とチェレスタのための音楽***
ネヴィル・マリナー卿指揮
シュトゥットガルト放送交響楽団1990年12月13、14日***、92年11月28日、12月4、5日* **、シュトゥットガルト、ヴィラ・ベルク、SDRスタジオ
Capriccio 10 417 (1994)
→アルバム・カヴァー意外にもバルトークは早くからマリナーのレパートリーに入っており、60年代末に「弦チェレ」とディヴェルティメントをアカデミーと録音したほか、本アルバムとほぼ同時期にやはりアカデミーを振って「オケコン」にも挑戦した(これは未聴)。シュトゥットガルトでマリナーはフル編成を生かして「20世紀の古典」ともいうべき一連の作品群を録音したが、バルトーク三曲もその一環として奏されたものだろう。晦渋な「不思議なマンダリン」も彼の手にかかると明快に解きほぐされ、「弦チェレ」では鋭角的な響きよりも堂々たる古典的構成が強調される。玩味すべき秀演。
13)
"Heinz Holliger - Ursula Holliger - Aurèle Nicolet"
マルタン:
三つの舞曲*
小哀歌**
小品***
オネゲル:
コンチェルト・ダ・カメラ****
小組曲*****
アンティゴネ******
マルチヌー:
オーボエ協奏曲*******
オーボエ* ** *** ****** *******
&イングリッシュ・ホルン**** ***** ******/ハインツ・ホリガー
ハープ/ウルズラ・ホリガー* ***
フルート/オーレル・ニコレ*** **** *****
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ* **** *******1991年10月9~11日、ロンドン、セント・ジョンズ・スミス・スクエア
Philips 434 105-2 (1993)
→アルバム・カヴァーニコレ、ホリガー夫妻を独奏者に迎えた贅沢なアルバム。ただし三人一緒に奏する曲目は室内楽なのでマリナーは関与していない。マリナー&アカデミーの役割は堅実なバックアップの域を出ないものの、とにかく曲目のセレクションが秀逸で、世界初録音(オネゲル「アンティゴネ」)も含まれる。両大戦間のヨーロッパ作曲界を彷彿とさせる好企画。そういえば先日ホリガー夫人の訃報が伝えられた。
14)
"George Gershwin"
ガーシュウィン:
ラプソディ・イン・ブルー(ファーディ・グローフェ編)*
ピアノ協奏曲 ヘ調*
パリのアメリカ人
ピアノ/セシル・ウーセ*
ネヴィル・マリナー卿指揮
シュトゥットガルト放送交響楽団1991年11月1~4日、シュトゥットガルト、ヴィラ・ベルク、SDRスタジオ
Capriccio 10 406 (1993)
→アルバム・カヴァー英人指揮者、独逸楽団、仏人ピアニストで奏されるガーシュウィンと聴くと、それだけで食指が伸びない向きもおられようが、予断と偏見を捨て虚心に耳を傾けると、あくまでも音楽的で丁寧に仕上げられた癖のない演奏に驚かされる。マリナーとしてはミネソタ管弦楽団と創りたかったディスクかも知れないが、こうして欧州勢が結集して事にあたったのは結果的に吉と出た。見つけたなら是非お試しあれ。
15)
"Handel: Messiah/ The 250th Anniversary Performance"
ヘンデル:
オラトリオ「メサイア」
ソプラノ/シルヴィア・マクネア
メゾソプラノ/アンネ・ゾフィー・フォン・オッター
アルト/マイケル・チャンス
テノール/ジェリー・ハドリー
バス/ロバート・ロイド
合唱/アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ合唱団
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1992年4月13日(+14、15日)、ダブリン、ポイント・シアター(実況)
Philips 070 432-9 (1992/2003, DVD-Video)
→パッケージ・カヴァーマリナー&アカデミーは1969・71年にデイヴィッド・ウィルコックス指揮「メサイア」録音に参加したのを皮切りに、1976年にはマリナー指揮で全曲盤(Argo)を仕上げ、更にマリナーが単身シュトゥットガルトに赴いてドイツ語版全曲録音も完成させている(Electrola)。そのうえで「満を持して」臨んだのがこの「初演二百五十周年記念演奏」と銘打たれた1992年の再々録音。演奏会は1742年の初演日と同じ4月13日に、初演都市ダブリンで催された。マリナーは必ずしもダブリン初演時の楽譜に拘らずに、適宜いくつかの版を折衷して演奏したようで、「1743年ロンドン初演版」と銘打たれた彼自身の1976年録音とも細部の扱いがいろいろ異なっているらしい(このあたりの問題は複雑で小生の手には負えない)。記念演奏会の一部始終はPhilipsにより実況録音・録画され、CDとヴィデオで発売された。CDも手許にあった筈だが、折角なのでDVDで鑑賞(マリナーの指揮する映像は必ずしも多くない)。二十年以上も前の映像なので解像度にやや問題はあるものの、マクネア、フォン・オッターら旬の歌手がずらりと勢揃いした「メサイア」はやはり感動的。鳴り物入りで喧伝された演奏だが、非=古楽器系のためか近年は殆ど話題にもならず、Philipsが消滅した今となっては入手も儘ならないのが残念だ。
16)
"Gustav Mahler: Ausgewählte Lieder"
マーラー:
リュッケルトの詩による五つの歌曲
■ 私の歌を覗き見ないで
■ もし貴方が美ゆえに愛するなら
■ 真夜中
■ 私はあえかな馨りを嗅いだ
■ 私はこの世から消え去った
メゾソプラノ/白井光子
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1992年11月19、20日、ロンドン、セント=ジュード=オン=ザ=ヒル
Capriccio 10 712 (1996)
→アルバム・カヴァー →収録曲リスト次第にレパートリーを拡張したマリナー卿だが、時流に反してブルックナーとマーラーの交響曲には殆ど手を染めていない(録音は前者の「第〇」、後者の「第四」のみ)。そのあたりも彼が世間から大指揮者と認められない一因かも知れない。ロバート・ティアを独唱者としたマーラー「さすらう若者の歌」がLP時代に出たというが架蔵せず、小生の手許にあるのはこの白井光子と共演した「リュッケルト歌曲集」のみ。しかも如何なる理由からか、ピアノ伴奏を主体とするマーラー歌曲アルバム(全十七曲を収録)の各処に管弦楽伴奏の五曲をバラバラに(トラック2, 5, 9, 13, 17)配するという不可解な編集がなされ、聴きづらいことこの上ない。とはいうものの、独逸語を解さぬ者の耳にも白井女史の歌唱が高度に研ぎ澄まされ、前人未到の境地に達していること位はわかる。マリナーの控え目だが丁寧な伴奏指揮も好もしい。普通の形で五曲を通して聴けたらどんなに良かったろう!
17)
"Fauré: Requiem"
フォーレ:
レクイエム*
パヴァーヌ
ケックラン:
フォーレの名によるコラール
フローラン・シュミット:
ガブリエル・フォーレの名によるスケルツォ
ラヴェル:
亡き王女のためのパヴァーヌ
ソプラノ/シルヴィア・マクネア*
バリトン/トマス・アレン*
ラースロ・ヘルタイ指揮
セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ合唱団*
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1993年1月6~8日、94年1月6日("Pie Jesu")、ロンドン、セント・ジョンズ・スミス・スクエア
Philips 446 084-2 (1995)
→アルバム・カヴァーフォーレの「レクイエム」は成立事情が複雑で、オーケストレーションが別人の手になるなど、厄介な問題を孕んだ作品である。今では小編成の初期形で演奏される機会も多くなったが、このマリナー録音は従来どおりアメル(Hamelle)社が1901年に刊行したロジェ=デュカス編曲による旧版に基づく。その点ではさして新味のない演奏だが、編成はかなり縮小されているらしく、合唱も含めて全体に小ぶりな印象、すっきり透明に響く。マクネアとトマスの独唱も穏やかで抒情性に富む。本アルバムの面白味はむしろ組み合わされた小品群にあり、こよなく美しいフォーレの「パヴァーヌ」(合唱抜きの版)に加え、ケックラン、シュミットが恩師フォーレに捧げた二曲(どちらも滅多に聴けぬ秘曲)、それにラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」(フォーレの感化が歴然)までも収録して、「フォーレとその楽派」が通覧できる。アルバム構成にマリナーならではの配慮が光る一枚。
18)
"English Idyll"
ヴォーン・ウィリアムズ:
ロマンツァ ~チューバ協奏曲
エルガー:
ロマンス
田園曲*
ディーリアス:
カプリスとエレジー
グレインジャー:
若き歓喜
ジョージ・ダイソン:
幻想曲
アイアランド(クリストファー・パーマー編):
聖なる少年
ヘンリー・ウォルフォード・デイヴィーズ:
厳粛な旋律**
グレインジャー(クリストファー・パーマー編):
ブリッグ・フェア
ホルスト:
祈願
シリル・スコット:
パストラルとリール***
チェロ/ジュリアン・ロイド・ウェッバー
オルガン/ジョン・バーチ* **
ピアノ/ジョン・レネハン***
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1994年1月4~8日、ロンドン、セント・ジョンズ・スミス・スクエア
Philips 442 530-2 (1994)
→アルバム・カヴァー気鋭の英国チェリストが丹念に捜し出し、手塩にかけ愛奏した「英国近代チェロ協奏小品アンソロジー」。秘曲を選りすぐったセレクションにまず目を瞠る(当然ながら世界初録音が四曲も含まれる)。この種の音楽を愛することでは人後に落ちないロイド・ウェッバーとマリナーが次から次へと紡ぎ出す美しき英国音楽の精髄に陶然とするばかり。意気投合した両者は二年後にはウォルトンとブリテンのチェロ協奏曲の録音でも共演を果たしている。中古盤で探せるうちに入手すべき一枚。
19)
"Britten - Curlew River - Marriner"
ブリテン:
典礼寓話劇「大杓鷸の川」
狂女/フィリップ・ラングリッジ
船頭/トマス・アレン
旅人/サイモン・キーンリーサイド
僧正/ギドン・サクス
少年の霊/チャールズ・リチャードソン
合唱/ロンドン・ヴォイシズ
ネヴィル・マリナー卿指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ楽団員(ヴィオラ/レイチェル・ボールト、コントラバス/クリストファー・ローレンス、フルート/ジェイミー・マーティン、ホルン/ティモシー・ブラウン、打楽器/トリスタン・フライ、ハープ/スカイラ・カンガ、オルガン/ジョン・コンスタブル)1996年7月15~17日、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
Philips 454 469-2 (1998)
→アルバム・カヴァーベンジャミン・ブリテンが1956年の来日時に東京で二度も観た能《隅田川》の強烈な体験から翻案・作曲した「教会上演用寓話劇」。日本人にとって特別な意味のある作品であるばかりか、東西芸術交流史上にも特筆すべき成果である。ただし録音は永らく1965年ブリテン自作自演盤(主演の狂女役は無論ピーター・ピアーズ)が唯一無二だったから人口に膾炙するには至らなかった。小生の知る限り、このマリナー盤は「カーリュー・リヴァー」三つ目の録音である。LP時代以来ブリテン盤を久しく聴き直していないので比較は儘ならないが、この演奏における声楽アンサンブルは綿密を極め、秘めやかに心に染み入るブリテンの奥義をまざまざ実感させる。オペラ指揮者としてのマリナーの経験が生かされた秀逸な一枚。
20)
"Arriaga - Orquestra de Cadaqués"
アリアーガ:
序曲 ヘ長調「八重奏」作品1
カンタータ「エルミニア」*
序曲 ニ長調 作品20
交響曲 ニ短調
ソプラノ/アイノア・アルテータ*
ネヴィル・マリナー卿指揮
カダケス管弦楽団2006年8月18~24日、サン・セバスティアン、クアザール
Toritó TD0034 (2007)
→アルバム・カヴァー →カダケス管とフランス国境に近いカタルーニャの港町カダケスで催される音楽祭のため1988年創設された若いオーケストラ。マリナーは92年からその首席客演指揮者を務めている。すでに二十年を超える両者の良好な関係からは数枚のCDが生まれており(すべてToritóレーベル)、夭折したスペインの作曲家(享年十九!)フアン・クリソストモ・デ・アリアーガの管弦楽選集はとりわけ感興に満ちた聴きものだろう。八十代に入ってもレパートリーの拡大に努める老匠の意欲に頭が下がる。
補遺=アンコール)
エルガー:
序奏とアレグロ
モーツァルト:
交響曲 第三十五番
ベートーヴェン:
交響曲 第一番
ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズ1978年2月13日、ワルシャワ(実況)
Eternities ETCD 052-S (2010, CD-R)
記念演奏会の締めくくりは、非公式盤ながら珍しい音源を。マリナー&アカデミーの第一期「黄金時代」、彼らが東欧に旅した際の実況録音である。一夜のプログラムに選ばれた三曲はいずれも彼らの十八番中の十八番。颯爽と若々しく弾むように清新な演奏が旅先の聴衆を魅了するさまが彷彿とする。モノーラルながら鑑賞には充分に耐える音質である。二度と戻らぬ時を刻み込んだ貴重な記録。