ジャン・ド・ブリュノフの同名絵本(1931)の本文にプーランクがピアノ伴奏を添えた音楽物語「
子象ババールのお話 Histoire de Babar, le petit éléphant」(1946)は、少なくともわが国では殆ど存在を知られなかった。
元の絵本そのものは戦後間もなく日本語版が刊行され、その後も何種類かの邦訳を通して子供たちの間で広く愛読されたというのに、「音楽物語」のほうの知名度はサッパリだった。同じく子供向けの朗読付き音楽としてプロコフィエフが作曲した「ピーターと狼」(1936)が、繰り返しオーケストラ演奏会で上演され、また幾多の日本語ナレーション入りLPを通して広く人口に膾炙したのとは大違いだ。
1966年に仏EMIからジョルジュ・プレートル指揮による待望の管弦楽伴奏版LP(編曲/ジャン・フランセ、語り/ピーター・ユスティノフ
→これ)が登場し、英米両国でも同じユスティノフがナレーションを務めた英語ヴァージョン(
→これ)を通し少なからず聴かれたのに対し、わが国では十年以上の長きにわたり蔑ろにされ、やっと東芝から日本盤LPが出たのは1970年代末になってからだ。それとて原盤と同じく語りがフランス語だったから、ジャポンの子供たちにはまるきり理解不能。オリジナルのピアノ伴奏版にしても、日本語の朗読付きで上演される機会は滅多になかったのではなかろうか。少なくも小生は一度も接したことがなかった。
こんな理不尽なことがあっていいのか。真剣にそう考えた人物が一人だけいた。当時(1980年代末)東芝EMIのプロデューサーだった仙波知司さんだ。彼は当時、子供のためのクラシカル音楽入門CDシリーズを構想しつつあり、その第一弾としてこれこそ打ってつけの音楽物語だと考えたのである。
当時なかった日本語の語りで、この名作・名曲のアルバムを…と思い立ち、ピアノ演奏は「サティ・ピアノ音楽全集」を完成したばかりの高橋アキさんにお願いし、快諾をいただきました。が、朗読の人選は悩みました。挙句、この本の訳者である矢川澄子さんにお目にかかり相談させていただいたところ、「《男の子の成長の物語》だから男性が、そしてできることならパパが良い…」とのこと。そして当方がお目にかけたリストのなかから、迷うことなく「忌野清志郎さん」を選ばれました。矢川澄子さんは既に『ぞうのババール(=子象ババールのお話)』に始まる「ババール絵本」全十冊を1974年から翌年にかけて評論社から翻訳刊行しており、「
『ババール』のシリーズはわたしのいままで手がけた絵本の中でも最も好きなもののひとつ」で、第一巻目については「
訳文をすっかりそらんじてしまってもいる」とまで、その愛着の深さを語っている。
こうして矢川澄子+高橋アキ+忌野清志郎という意表を突いたコラボレーションによって、史上初の日本語版「ババール」のディスクは世に出たのである。
不思議なことに、このキヨシロー版「ババール」の登場を嚆矢として、日本録音による同曲のCD製作がたて続けに行われていく。LP時代のおける永きにわたる等閑視がまるで嘘のような変貌ぶりだ。
そうなった背景には、矢川澄子訳の絵本シリーズを通じ「ババール」人気がわが国でも定着した状況が何よりまず奏功していようし、CDフォーマットではLPに比して小枚数の製作が可能だという商業的な理由や、原作者ジャン・ド・ブリュノフの著作権が日本では1998年に消滅した(挿絵の商標権のみ継続)という裏事情も絡んでいると想像されるが、本当のところはよくわからない。
ともあれLP時代には殆ど話題にもならなかった「知られざる名作」が、今では「ピーターと狼」に勝るとも劣らぬ知名度を獲得しつつあるのは、古くからの熱心なプーランク愛好者としては慶賀に堪えない。
以下に掲げるのは
「ぞうのババール」日本録音ディスコグラフィ。ただし、あくまで日本で独自に収録された音源に限るので、既存の外国録音のナレーションだけを差し替えた日本語盤は含まない。それだけでこんなにも数多く出ていたのか、と驚かれる方もおられよう。かくいう小生も目を丸くしているのだ。
ただし、小生がたまたま架蔵するアルバムを列挙したに過ぎず、この一覧表は恐らく完璧とは程遠いだろう。同曲のピアノ伴奏版は演奏・録音が容易であるところから、私家盤もしくは非売品としてひっそり世に出た例もあり、遺漏なきリストづくりは意外に難しいのだ。配列は概ね発売順を心がけた。
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Discographie des enregistrements au Japon
de l'Histoire de Babar de Brunhoff/Poulenc
1)
Kiyoshiro IMAWANO (récitant) et Aki TAKAHASHI (pianiste)
《はじめてのクラシック/音楽物語 ぞうのババール》
プーランク:
《ぞうのババール》(日本語版/矢川澄子訳)*
《ぞうのババール》(フランセ編曲/フランス語版)**
語り/忌野清志郎*
ピアノ/高橋アキ*
語り/ピーター・ユスティノフ**
ジョルジュ・プレートル指揮
パリ音楽院管弦楽団**1989年9~10月(?)、東京
1965年5月20、21日、12月17日、パリ、サル・ヴァグラム
東芝EMI Eastworld TOCE-6030 (1989)
→アルバム・カヴァー東芝EMI Disques KIZNA TOCE-8481 (1994)
ディスク クラシカ ジャパン DCJA-21022K (2012)
→アルバム・カヴァー
*現行の再発盤は日本語版のみ収録
語りと音楽を独自の発想で結びつけた子供向けシリーズ「はじめてのクラシック」は本盤を皮切りに全十八点が出た(最高傑作は《兵士の物語》だろう)。矢川澄子の推輓によるという「先年父親になったばかり」のキヨシローの起用は果たして吉と出たのか否か。いかにも素人じみて滑舌の宜しくない語りをどう感じるかで好悪はハッキリと二分されるだろう。因みに小生は何度耳にしても馴染めないのだが。
2)
Yoko YOSHIWARA et Christian IVALDI
《サンサーンス:動物の謝肉祭/プーランク:子象ババールの物語》
サン=サーンス:
《動物の謝肉祭》(テクスト/ラッセ・ボエユスティ、大倉純一郎訳)*
プーランク:
《子象ババールの物語》(日本語版/訳者不明)**
語り/吉原陽子
クフモ・チェンバー・ソロイスツ
[ピアノ/クリスティアン・イヴァルディ、コンスタンティン・ボギノ、フルート/パトリック・ガロワ、クラリネット/エドゥアルト・ブルンナー、ヴァイオリン/パーヴェル・ヴェルニコフ、新井淑子、ヴィオラ/ヴラジーミル・メンデルスゾオーン、チェロ/セッポ・キマネン、コントラバス/永島義男、打楽器/関修一郎]*
ピアノ/クリスティアン・イヴァルディ**1989年11月、北九州(北九州国際音楽祭)
Ondine ODEJA014 (1990) →アルバム・カヴァー(画像なし)
今も続く「北九州国際音楽祭」が北欧の「クフモ室内音楽祭」と提携していた時期の貴重な記録。「ババール」が取り上げられた経緯はわからないが、ジャック・フェヴリエ門下の名手イヴァルディのピアノが聴きものだ。ナレーターの吉原陽子については北九州を拠点とする人という以上は不明だが、明瞭な語り口から察するにアナウンサー出身か。肝腎の日本語テクストの訳者名が記されないのが残念。
3)
Estrellita WASSERMAN et Haruna HIRAO
《平尾はるな・プレイズ・プーランク》
プーランク:
十五の即興曲
三つの常動曲
《村人たち》
《子象ババールの物語》(フランス語版)*
語り/エストレリータ・ワッセルマン*
ピアノ/平尾はるな1998年5月8~10日、山梨、牧丘町民文化ホール
コジマ録音 ALM Records ALCD-7049 (1998)
→アルバム・カヴァー奏者は作曲家・平尾貴四男の息女で安川加壽子の門下、「日本プーランク協会」創設者でもある。彼女が満を持して録音したプーランク・アルバムに「ババール」が選ばれた僥倖に感謝しよう。粒揃いで芯のある音色、瀟洒だが確固たる弾きぶりは見事。語り手のワッセルマンは東京でフランス文学を講じ、『三四郎』や小津《東京物語》シナリオの仏訳も手がける才媛。淡々とした語り口に好感がもてる。
4)
Hiroko KODA et Hikotaro YAZAKI (chef d'orchestre)
《「マ・メール・ロワ」&「ぞうのババール」》
ラヴェル:
バレエ音楽《マ・メール・ロワ》(台本/池田香代子)
音楽物語《ぞうのババール》(フランセ編曲/日本語版/矢崎彦太郎訳)
語り/幸田弘子
矢崎彦太郎指揮
大阪センチュリー交響楽団1999年8月31日~9月2日、大阪、センチュリー・オーケストラ・ハウス
東芝EMI disque KIZNA TOCE-55080 (1999)
→アルバム・カヴァー「マ・メール・ロワ」に独自のナレーションを書き下ろし、管弦楽版の「ババール」本邦初録音と組み合わせた豪勢なアルバム。企画者は「はじめてのクラシック」シリーズと同じ仙波知司である。東京放送劇団の出身で朗読家としてのキャリアを重ねた幸田弘子のナレーションは流石に見事。日本語のディクシオンの美しさに聴き惚れる。「ババール」独自訳まで手がけた矢崎彦太郎の貢献も見逃せない。
5)
Kenji MURATA et Hiroko UEHARA
《プーランク・ピアノ曲 Vol.1》
プーランク:
三つの常動曲
夜想曲 第一番
《村人たち》
フランス組曲
《子象ババールの物語り》(フランス語版)*
語り/村田健司*
ピアノ/上原ひろ子2000年4月1、2日、東京・品川、春雨ホール
ナミ・レコード Live Notes WWCC-7375 (2000)
→アルバム・カヴァー村田健司の導きでフランス歌曲の伴奏者として出発し、村田と「プーランク全歌曲集」録音を仕上げた上原ひろ子が「プーランク・ピアノ曲集」に挑戦。選曲も演奏も申し分ない。「ババール」仏語ナレーションを村田に委ねたのは蓋し当然の人選だろう。初演者ピエール・ベルナックの顰みに倣ってか、その語りには凛たる気品が漂う。彼は同曲をアンリエット・ピュイグ=ロジェ女史と共演した経験もある。
6)
Saku SHODA et Etsuko TOKUSUE
《ピアノの軌跡 Vol.2/メルヘンへの旅立ち》
ドビュッシー:
《おもちゃ箱》*
プーランク:
朗読とピアノのための《小象ババールの物語》(日本語版/訳者不明)**
語り/荘田作* **
フルート/幸田洋子*
ピアノ/徳末悦子1984年7月、神戸(「視覚と聴覚の接点を求めてのコンサート」実況)
SMCD-1002 (2000、非売品)
→アルバム・カヴァー神戸を拠点にする教育者・ピアニストの徳末悦子が1984年に催した朗読とスライド投影付き演奏会の実況録音。記録用のカセット・テープ収録なので音質は芳しくないが、日本人の「ババール」演奏としては最も年代の古い音源として珍重に値しよう。朗読は訳者不明の日本語版によるものだが、さして取り柄の無い平凡な出来映えだ。ドビュッシー「玩具箱」はフルートのオブリガートを伴った珍しい版。
7)
Patrice LEROY et Mica OHTAKI
《プーランクと詩人たちの戯れ》
■ レーモン・クノー詩「もし人生が過ぎ去れば」*
プーランク: 二つのノヴェレット 第一番
■ ボリス・ヴィアン詩「ロック=ムシュー」*
プーランク: 二つのノヴェレット 第二番
■ レーモン・クノー詩「人類空間」*
プーランク: 八つの夜想曲 第七番
■ ジャック・プレヴェール詩「検察官」*
プーランク: 即興曲 第六番
■ ボリス・ヴィアン詩「小さな説教」*
プーランク: 即興曲 第七番
■ ジャック・プレヴェール詩「劣等生」*
プーランク: 即興曲 第十二番
■ ジャック・プレヴェール詩「君のため、恋人よ」*
プーランク: 即興曲 第十五番
■ ボリス・ヴィアン詩「最後の円舞曲」*
プーランク:
組曲《ナゼルの夕べ》
ピアノと語りのための《子象ババールの物語》(フランス語版)*
語り/パトリス・ルロワ*
ピアノ/大瀧実花2000年12月6~8日、群馬、笠懸野文化ホール・パル
2001年2月7日、埼玉・松伏、田園ホール・エローラ
コジマ録音 ALM Records ALCD-7062 (2001)
→アルバム・カヴァー前半ではプーランクのピアノ小品と同時代フランス詩とが交互に登場、そのあと独奏曲「ナゼルの夕べ」を経て、「ババール」でピアノと朗読が出逢うという凝ったアルバム構成。大瀧のピアノは冴えたタッチが心地よく、「ナゼルの夕べ」が名演だ。ルロワ+大瀧コンビは2000年代に各地で共演し「ババール」を披露したそうな。ただしプレヴェール、クノー、ヴィアンの三詩人はプーランクと縁遠く、肝腎の「ババール」では語りが些か大仰で悪達者の気味がある。やや企画倒れの一枚。
8)
Ayako Kondo et Peter Tatsuya Suzuki
《ピアノと語りの素敵な時間 ライヴ》
ドビュッシー:
水の反映
西風の見たもの
亜麻色の髪の乙女
《子象ババールのお話》(日本語版/鈴木達也訳)*
ドビュッシー:
かわいい黒人の子供
《子供の領分》
語り/ピーター鈴木(鈴木達也)*
ピアノ/近藤綾子2001年5月20日、東京、すみだトリフォニーホール 小ホール(実況)
Akoco UCD-1079 (2001)
→アルバム・カヴァー2001年に催された同題リサイタルの実況録音。近藤はロンドンで学び、フランス近代音楽を得意とする由。「ババール」の演奏も手堅く安定感がある。朗読の鈴木はヤマハやスタインウェイ ジャパンの経営に携わった斯界の大物だという。朗読はいかにも素人芸だが、自らの日本語訳による語りは嫌みがなく、好もしいものだ。
9)
Kyoko KISHIDA et Izumi TATENO
《音楽と物語の世界 ぞうのババール》
プーランク:
《ぞうのババール》(日本語版/矢川澄子訳)
シベリウス:
組曲《フロレスタン》(シベリウス詩/伊東ひろみ訳・補筆)
シサスク:
星の組曲《きらきら光る夜空のお星さま》第一番 (詩/谷川俊太郎)
パルムグレン:
《月の光》作品54-3 (詩/谷川俊太郎)
シサスク:
星の組曲《きらきら光る夜空のお星さま》第二番 (詩/谷川俊太郎)
語り/岸田今日子
ピアノ/舘野泉2001年2月5~6日、横浜、みなとみらいホール(小ホール)
ジャパン・アーツ/アーツ・コア Sacrambow ATCO-1025 (2001)
→アルバム・カヴァー オクタヴィア Sacrambow OVSL-00017 (2006)
→アルバム・カヴァー1999年春「ぞうのババール」共演で始まった舘野泉と岸田今日子の二人演奏会シリーズ「音楽と物語」は永くは続かなかった。周知のとおりピアニストは2002年に病で半身の自由を喪い、朗読者も2006年に世を去って、共演はもう二度と叶わないのだ。その意味からも本アルバムはきわめて貴重。「ババール」に加え、シベリウスやパルムグレン、エストニアのシサスク Urmas Sisask の珍しいピアノ曲に新たなナレーションを附加して、このジャンルを豊かにする努力が払われている。それにしても岸田の朗読のなんたる巧みさ、瑞々しさ。実演に接したかったな。
10)
Madoka MAYUZUMI et Jean-Louis FORESTIER (chef d'orchestre)
《ミヨー:打楽器と小管弦楽のための協奏曲/プーランク:子象ババールのお話》
ミヨー:
打楽器と小管弦楽のための協奏曲 作品109*
プーランク:
音楽物語《子象ババールのお話》(フランセ編曲/日本語版/訳者不明)**
ジョリヴェ:
打楽器と管弦楽のための協奏曲*
打楽器/トマス・オケリー*
語り/黛まどか**
ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮
オーケストラ・アンサンブル金沢2004年5月24日、金沢、石川県立音楽堂コンサートホール(実況)
ワーナーミュージック・ジャパン WPCS-11862 (2005)
→アルバム・カヴァーオーケストラ・アンサンブル金沢「第百六十回定期演奏会」実況録音。当夜の演目にはフォーレ「ペレアスとメリザンド」、サティ「パラード」も含まれ、「ババール」はミヨー、フォーレに続き奏された由。実演ながらアンサンブルの乱れは殆どなく、黛まどか(本職は俳人)のナレーションも秀逸、プロ顔負けの流暢な語り口と優しい美声に吃驚。日本語版の訳者名がどこにも記されないのは掟破りだろう。
11)
Takako NISHIMURA et Yasuko TASUMI
《プーランク:ぞうのババール》
プーランク:
《ぞうのババール》(日本語版/矢川澄子訳)*
ドビュッシー: レントより遅く
シャブリエ: スケルツォ=ヴァルス
オネゲル: ラヴェルを讃えて
デ・ファリャ: スペイン舞曲 第一番
語り/西村孝子*
ピアノ/田隅靖子2005年6月21日、滋賀、栗東芸術文化会館さきらホール
ブラームスホール協会 BHCM0001B (2005)
→アルバム・カヴァー京都を拠点に活動する田隅靖子は井口基成、井上二葉、H・ピュイグ=ロジェらに師事し、ドイツ古典のほかフランク、ショスタコーヴィチ、更にはシュールホフ、ウルマンら反ユダヤ主義の犠牲者たちのピアノ音楽にも果敢に取り組んできた。本CDは「ババール」を中心に、プーランクと同時代のパリに因む近代音楽を集めたもの。取り立てて特徴はないが、西村の清潔な語りともども好感のもてる演奏。
12)
Shiro SAITO et Julien LE PAPE
《ジュリアン・ル・パップ『象のババール』》
ドビュッシー: 二つのアラベスク
プーランク:
音楽物語《象のババール》(日本語版/鈴村真貴子訳)*
ドビュッシー: 前奏曲集 第一集
語り/斎藤志郎*
ピアノ/ジュリアン・ル・パップ2008年2月26、27日、東京、三鷹市芸術文化センター 風のホール
カワイ音楽振興会 ZMM0805 (2008)
→アルバム・カヴァーフランスの若手ピアニストによる演奏。「ババール」の前後にドビュッシーを配した珍しい試みだが、続けて聴いても違和感は全くない。プーランクの書法にドビュッシーとの親和性があるからか。ル・パップの演奏は堅実ではあるが、感覚的な閃きに乏しい。清志郎から約二十年ぶりに男声による日本語ナレーションなので期待したが、文学座に所属するという斎藤の語りは平凡で、声質にも魅力を欠く。
13)
Nozomu HAYASHI et Mayumi TOKUGAWA
《徳川眞弓+林望+C・W・ニコル/子象ババールの物語│子供の領分》
プーランク:
《子象ババールの物語》(日本語版/林望訳)*
マスカーニ(深見麻悠子編): 「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
ドビュッシー:
《子供の領分》(詩/谷川俊太郎)**
グルダ: アリア
語り/林望*
語り/C・W・ニコル**
ピアノ/徳川眞弓2013年6月24、25日、横浜、港南区民文化センター「ひまわりの郷」
2013年8月3日**、7日*、東京、銀座7thスタジオ(語り)
2013年9月4日、東京、五反田文化センター音楽ホール(マスカーニ&グルダ)
ディスク クラシカ ジャパン DCJA-21024 (2013)
→アルバム・カヴァー 矢川+高橋+忌野による「最初のババール」から四半世紀近い歳月が流れ、折りからプーランク歿後五十年の節目の年に、話題性ある新盤が満を持して登場した。プロデュースはまたも仙波知司さん。もともとはピアニストの発案だったらしいが、ナレーションの人選の意外さは企画者のアイディアだろう。矢川さんの遺訓どおり今度の「ババール」のナレーターもまた男性──それもリンボウ先生その人というから驚いた。朗読を快諾したばかりか、先生は自ら新訳まで買って出た由。『謹訳 源氏物語』大業を成し遂げた直後の解放感が奏功したか、訳文は平明さと高雅さのブレンド具合が甚だ秀逸。"
従来の訳よりはずっと辛口の「大人の新訳」というところであろうか" とはご自身の弁だが、まさに大人の鑑賞に耐える見事な日本語である。淡々と落ち着いた語り口もなかなか床しいものだ。これとは対照的なのがドビュッシー「子供の領分」。谷川俊太郎が各曲に附した詩はどうも不出来で我儘勝手だし、ニコル氏の朗読も良く云えば味があるが、日本語としてはたどたどしく耳に馴染まず、こちらはミスキャストの誹りを免れまい。徳川眞弓のピアノは音色がやや単調。フランス的な感覚の閃きに乏しいが、演奏の水準は高い。ただし、余りに異質なマスカーニやグルダの小品を差し挟む思い付きはどうも感心できない。
情報追加)
2016年5月10日