三連休の最終日だという。そう聞かされても「毎日が日曜日」の拙宅にはとんと縁のない話である。とはいえ、今日もよく晴れ、しかも昨日までの暑さがぐっと和らいだ清々しい秋日和なので、『
あまちゃん』総集編の前半を見終わったところで衆議一決(後半はあらかた観ている)、電車を乗り継いて上京することにした。
先日に引き続き今日も都内の公園を訪ねる計画だ。飯田橋まで地下鉄で出ると丁度お昼時。まずは腹拵えが先決と神楽坂界隈をうろつくが、飲食店が多すぎて却って戸惑ってしまう。昔とは商店街の印象も一変してしまった。
あてどなく裏路地を彷徨った挙句、たまたま目にした「
あべや」という鶏料理の店にした。比内地鶏が売り物とかで、店内には秋田の銘酒がずらりと並び、夜は焼鳥や鶏鍋を供するらしい。昼のお奨めは親子丼だというので是非もなく家人は「小盛り」、小生は「大盛り」を註文。その間にも来客は引きも切らず、かなりの人気店であるらしい。供された親子丼はまずまず美味しく、炭火で焼いたという鶏肉も香ばしい。点け合わせに鳥がらスープ、冷奴(岩塩で食す)、いぶりがっこ(大根の燻製ですね)が附くのも床しい。
よく晴れた休日の昼下がり、神楽坂は次第に混んできたようなので、裏路地をそのまま進み、右折して軽子坂を下ったら懐かしい名画座「
ギンレイホール」の前に出た。二本立て千五百円が高いか安いかは人それぞれだろうが、健在ぶりが嬉しい。近日上映作品には《カルテット!》や《シュガーマン》などもあって、ちょっと心そそられる。久しぶりに再訪しようかな。シニア料金は千円だというし。
そのあと飯田橋駅前の五叉路を過ぎるとようやく喧騒が遠のき、しばらく裏通りを進むと
小石川後楽園の入口に到着。云うまでもなく水戸徳川家の庭園である。管理事務所で金三百円×二名を支払い入場。有料の庭園は期待できる。それだけ手入れが丹念に行き届き、不心得者もみだりに立ち入らないからだ。
いや~、流石に天下の徳川御三家の中屋敷(のちに上屋敷)だけのことはありますね、広いのなんのって。ざっと園内を一周するだけで一キロ半はあろうかという広大さ。こないだ訪れた新江戸川公園(=旧細川庭園)はすっかり顔色を失うだろう。そもそも将軍家と大名とではまるで格が違うのだ。
中央の大池を経巡っていくと紅葉林がある、松林がある、梅林、藤棚、菖蒲田と八つ橋があるほか、小さいながら水田まで備わっている(光圀公の創設という)。回遊式庭園の常でほうぼうに高低差が設えてあるので、さながら丸ごと大自然のミニチュアの趣。ゆっくり丹念に見て歩くと優に二時間はかかりそうだ。
周知のとおり、公園敷地は東京ドームに隣接していて、木々の向こうに巨大なシルエットが聳えている。後楽園遊園地のジェットコースターからの絶叫も、総武線や丸ノ内線の線路からの騒音も、嫌でも耳に入ってしまう。だが鬱蒼たる木立のなかに入ってしまうと、鳥の囀りがあちこちで聞こえ、周囲の眺めはとても都心とは思えない。そこはもう別天地の趣だ。事務所で貰った園内地図に刷られた惹句「
大江戸・東京に残る深山幽谷」は誇張でも嘘でもないのである。
園内を一巡すると脚が少々草臥れた。入口に戻って「
涵徳亭」という茶店で白玉デザートを食す。雰囲気はいいが給仕が雑で宜しくない。でも疲れを癒すにはもってこいの場所だ。元気が回復したところで出発。入口から出て、公園の外壁に沿ってそぞろ歩く。ここの石垣は江戸城外堀から移したものだそうで、石のひとつひとつに「〇に山」の刻印がある(備中成羽藩主山崎家の印らしい)。
大通りを右折してしばらく行くと地下鉄丸ノ内線の後楽園駅に到着。夕暮にはまだ間があるが今日の散策はこれにて終了。好天に恵まれた長閑な半日だった。地下鉄とJRを乗り継いで帰宅の途に就く。